くらし

【庭を楽しむ 岡本典子さん】みずみずしい庭の恵みを、食べて・飾って・愛でて。

  • 撮影・中垣美沙 文・黒澤 彩
6月の庭で摘んだハーブ。右上から時計回りに、ドクダミ、ローズマリー、ラベンダー、セージ2種、レモンバーム、ワイルドストロベリー、ティーツリー。

丘の上の高台に立つ岡本さんの家。庭は玄関脇の階段を下りていった場所にある。道路に面していないため、ぐるりと植物に包まれるようなプライベート感のある空間だ。

この庭づくりを始めたのは、11年ほど前。植えた時には小さな樹だったロシアンオリーブはすくすくと育ち、今では庭を見下ろすリビングの窓に届くほど大きくなった。
「引っ越してきて最初の数年間は、どういう庭にしようかなと、あれこれ考えているだけの妄想タイム。いざ、やるぞと決めたら一気に土を耕して、いろいろな種類の草木を植えました。でも、庭づくりが終わってしまったら寂しいので、ずっと未完成のままがいいという気持ちも。いまだに、今後のプランを妄想し続けています」

かつては庭の一部に小さな畑を作って、夏野菜を育てていたこともあるが、今はあまりきっちりと区画されていない、自然な風情を楽しんでいる。
「私の庭仕事は、“ものぐさガーデニング”です。庭を持ってみると、園芸学部で学んだような造園をするのは難しいとわかりました。知識と実践は違うものだなあと。本当はいくらでも庭にいたいし、雑草を抜いたり剪定したりと、することもたくさんあるのですが、なかなか時間がありません。そこで、どうやったら、それほど手をかけずに自分が癒やされる庭にできるかということを考えるようになったんです」
完ぺきを目指さないのも、案外いいものだという。たとえば、春に生えてくるボリジのこぼれ種が飛んで、去年とはまったく違う場所から芽を出した。わさわさとした庭で思いがけない発見をするのは、宝探しのようで楽しい。

見上げた先でのびのびと枝を広げているビワの樹も、鳥が種を運んできたのか、自然に根付いたものだとか。
「ごく小さい苗が生えているのを見つけて、そのまま育ててみたら、ずいぶん大きくなりました。毎年、初夏に実がなるとビワシロップを作ります」

春と秋、季節のいい時には庭で朝食をとることも。テーブルを出して、この日は紅茶とクッキーでおやつの時間。柿の木を見上げて、「すっかり実がなくなっちゃったね」。

子どもたちも、「ここにもローズマリーが生えてる!」というふうに、庭での宝探しをおもしろがっているようだ。
「興味を持ったら、花の名前なども自然に覚えるみたいです。長男が初めて覚えた庭の植物名は、ヘクソカズラ。よほど衝撃的だったのかも?」

忙しい日々の中で、庭に出るのはたいてい朝早く。子どもたちが起きだしてくる前に、岡本さんは一人、庭に降りて朝日を浴び、植物に触れ、鳥のさえずりを聞きながらコーヒーを飲む。
「不思議なもので、忙しい時ほど〝庭熱〟が高まります。けれど手を動かし始めるときりがないから、朝はあえて何もしない。それも、自分のバランスをとるために大切な時間なんです」

木漏れ日の下に咲くシロヤマブキの花。
青々と繁った夏のハーブを摘んで。
香りのいいレースラベンダーを部屋に吊るす。
初夏の庭ではハゴロモジャスミンが花盛りに。
ビワの実はシロップに、葉はお茶にして飲む。
小ぶりなビオラの鉢植えも庭の一部。
ロシアンオリーブの花の蜜は蜂に大人気。
可憐に咲く淡紫のシバザクラは昨年植えたもの。
食卓に飾るための草花のブーケ。
階段の上から、緑に囲まれた庭を見下ろす。

岡本典子(おかもと・のりこ)●花生師。Tiny N主宰。生花店オーナーを経て、雑誌、広告のフラワースタイリング、イベント出店、装花などで活躍。著書に『花生活のたね』(エクスナレッジ)など。

『クロワッサン』974号より

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