猪のアバラを切り分けながら暮らしの楽しさを語る服部さん。
「住み始めたころ敷地は草ぼうぼうの荒れ地でしたが、手をかけてみたらカキ、ビワ、夏ミカン、ミョウガ、孟宗竹などが自生していました。果樹や野草の生育を気にしたり、昆虫の発生を見守ったり、天候を眺めて山の野生動物のことを思ったり。住宅地に暮らしながら猟師の自覚を持つと、自宅の庭にこそ大自然への入り口があると感じます」
都会の中で自然に向き合い、暮らしとサバイバルの関連を意識すると、もっと能動的に生きたくなる。
「仕事に時間をとられすぎるので、自分の給料を半分に減らしても、誰かやる気のある人に仕事を分けたいですね。収入が減る怖さはあるけど、時間の魅力が大きい。山に入る時間が増えるし、家もいじれる。下の斜面も土止めして畑を増やしたいし、井戸も掘りたい」
妻の小雪さんが慣れた手つきで鹿の舌、内ロース、心臓に包丁を入れる。文祥さんがスパイスを混ぜてカレー作りを進める。小雪さんは、
「私も山歩きが好きなので猟について行ったこともあります。獲物が出た途端に走ったりするので、それが大変だから〝今日はもう何も獲れなくていい〟と思うこともありますよ(笑)」
犬のナツも猟にお供するけれど、まだ獲物を追い込む技量までは身についていなくて、ただいま修業中。
「狩りや畑仕事で食料を得るのは節約にも結びつきますが、買うほうが楽です。それでも自分の頭と身体を使って何かをするということ自体が、健やかに日々を過ごすかけがえのない行為かもしれませんね。病気になったらお金をかけて治す。それもいいけれど、身体を動かして健康に生きて医療費をかけないほうが豊かなのでは」
という文祥さんが味見するカレーは、そろそろおいしく出来上がり。高校3年の祥太郎くんがちょうど帰宅したので、高1の玄次郎くん、中1の秋さんも居間に集まり家族揃ってお昼ごはん。
「タン好き……」
しみじみと秋さんがつぶやく。鹿の舌が昼ごはんに出る家庭は、めったにあるものではない。なんと豊かな!
家族が団欒していると犬のナツも仲間に入りたがり、祥太郎くんがカレーを食べながら頭をなでてやった。