拾った倒木はチェーンソーで伐って、薪割りしやすい大きさにする。薪割りは体力のいる作業で、たまに子どもたちも手伝うが文祥さんが主に行う。
「エネルギー問題に対する意思表示とかではないんです。この家だけ薪ストーブで暮らしたところで地球の将来には影響がないし、環境への効果もほとんどない。むしろ近所の家庭がみんな薪を拾うようになったら、すぐに山から木がなくなります。江戸時代の末期はそんな感じだったみたいですね。今は誰も薪を使わないから、私が薪を使えるという現状について意識的でいようと心がけています」
割った薪は外壁に並べておき、一部はすぐ使えるように部屋の隅へ。ストーブに薪をくべると、なんだか和む。
「登山もただピーク(山頂)に行く効率を考えたら、お金で買った軽い食料や燃料だけ持ってスーッと行ってパーッと帰ってきたほうがいい。でも、それより自力で渓流魚を釣って山菜を採り、命の糧を得ながら登るほうが喜びは大きい。都会で給与生活しながら山に入る己を振り返ると、登山だけじゃなくて日常生活も、自分でできることは自力でやるべきだし、やりたい。だから家族と相談して、空き家を買って手作りの暮らしを始めました。もちろん、すごく非効率的なことや危険なことまで全部やるのは意味がないから、どこかで折り合いをつけますけどね。この家に住んで9年になりますが、暮らしに必要なことはお金で解決するより自分で手をかけたほうが楽しいですよ」