くらし

「捨てれば幸せ」とは限らない、程よくモノのある暮らし。

  • 撮影・青木和義 文・嶌 陽子

ものを捨て過ぎたら、体重が増え、頭痛が始まった。

[押し入れのふすまを取って、秘密基地のようなスペースに]リビングとつながっている和室の押し入れ。ふすまを取り払い、上段は壁紙やクッションシートを貼って子どものスペースにした。「長男と次男は学校から帰るとここへ直行します」。下段には布団などを収納。
[夫婦2人のオールシーズンの服がおさまったクローゼット]寝室のクローゼットには、夫婦2人の1年分の服が。「買うのは白や紺など、ベーシックで着回しできる服。明るい色のものなどは、毎月数着の服がセットで届く“ファッションレンタル”を利用しています」
[捨てまくり時代にも生き残った電子ピアノが今、大活躍中]ものを次々と捨てていった時代にも、ついに手放さなかった電子ピアノは、香村さんが就職時に買ったもの。奥の部屋にしまわれていたが、今はリビングに置かれ、1歳の長女をはじめ、皆が楽しんでいる。

すっきりした部屋。短縮した家事時間。その先にあるのは、充実した生活のはずだった。ところが、現実は思わぬ方向に。
「平日は仕事で忙しいので、まだよかったのですが、休日、何もない家の中では居心地も悪く、することも思いつかなくて。頭の片隅に『この部屋は人に見せたら恥ずかしい』という思いがあったので、人に来てもらうこともほとんどない。毎週末のお決まりの会話は『今日は何をする?』でした」

ごくたまに人を招いても、相手はソファも椅子もない部屋のどこに座ればいいか分からず、そそくさと帰ってしまったという、笑うに笑えないエピソードも。結局、週末は朝から晩まで出かけるようになる。当時、夫婦ではまったのは、ギャンブル。バリバリの理系で数字好きだった2人にとって、この娯楽はうってつけだった。
「攻略本を読んで初めて挑んだパチスロで、大当たりしたのがいけなかったんでしょうね。勝利の味が忘れられず、それから毎週末、朝からパチンコ屋の前に並んでいました」
けれども、当たったのは最初だけで、その後はどんどんお金が消えていく日々。めげずに夏休みや冬休みなどにラスベガスのカジノを訪れるも、結局、大金を損してしまったという。

さらに、何もない部屋でとる食事はあまりに味気なく、週末は3食とも外食に。それを続けるうちに、5キロ以上太ってしまった。
「しんと静まり返った部屋にいるのが苦痛だったのか、常に微熱や偏頭痛に悩まされるようになって。体調も悪化していきました」

7年間続けたそんな生活に終止符が打たれたのは、香村さんの父親が病に倒れたことがきっかけだった。
「父も昔から賭け事が好きだったので、『お見舞いにパチスロの攻略本を持っていこうか?』と聞いたら『いらない』と拒否されたんです。あんなにパチスロが好きだったのに、見向きもしないなんて、とショックでした。『私、間違ってるのかな。10年後、20年後の生活はどうなっているんだろう』とあらためて考えたんです」

ついに、夫婦で今後の生き方を話し合うことを決断。ただ、いざとなるとお互いに照れくさいので、“仕事っぽくやる”ことにした。
「会社では、短期・中期・長期の目標設定や、そのために何をすればいいかを明確にする“目標管理シート”を作成していました。それにならって、5年後、10年後にどんな生活を送っていたいかを話し合ったんです。さらに、将来のことだけでなく、お互いの子ども時代や学生時代など、過去もじっくり振り返りました。夫婦で合計100時間ぐらい話し合ったと思います。そこで、お互いが本当に好きなこと、譲れないこと、価値観などが、少しずつはっきりしてきたんです」

お互いの考えや夢を明確にしたうえで、出した結論。それは、「夫は将来、自宅で民泊を始めるのが夢。その計画について、今後も夫婦で話し合いたい。じっくり話す時間を持つために、家のリビングをもっと心地よい空間にしよう」ということ。そうして少しずつ、何もなかった部屋に、ソファやテーブルなどが戻ってきたのだった。

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