くらし

【こかじさらさんインタビュー】妬み、嫉みは悪い感情ではありません。『ざわつく女心は上の空』

妬み、嫉みは悪い感情ではありません。

こかじ・さら●千葉県生まれ。出版社勤務を経て、2010年よりフリーライターに。2016年、『アレー! 行け、ニッポンの女たち』でデビュー。フルマラソンを完走したり、海外のマラソンイベントに参加するほどのランニング好き。

撮影・千葉 諭

フェイスブックやインスタグラムなどのSNSで充実した生活を送っている友人の写真を見て、心が「ざわつく」経験をしたことはないだろうか。自分は自分、と言い聞かせても、モヤモヤとした気持ちが残る。そんな言葉にできない感情をテーマにしたのが、こかじさらさんの『ざわつく女心は上の空』。ひょんなことから人気料理研究家になった主婦・佐和子と、その周りの女性5名の複雑で厄介な感情を、それぞれの視点から描いた連作短編集だ。

「人間の感情は脳ほど利口ではないので、頭では理解できても気持ちが追い付かないことってありますよね。会社の同期が自分より出世するとか、友だちの息子が我が子より有名な大学に進学するとか……。おめでたいことなのに、心から祝福できない自分が情けない。憧れや嫉妬、苛立ちなどが混じった気持ちを、“ざわつく”と表現しました。これって、お坊さんでも死ぬまでなくならないとおっしゃっていたくらい、付き合うのが難しい感情らしいです」

SNSが浸透してからは、他人のどうでもいい情報が自動的に入ってくるようになり、ざわつきを感じる機会が格段に増えた。不毛なマウンティングをしたり違和感を抱く登場人物5人の、誰に対しても自分と重なる部分が少なからず見つかるだろう。このリアリティは、やはりモデルがいるからこそなのだろうか?

「友人からも『この登場人物って〇〇のこと?』と聞かれたことがありますが、フィクションです(苦笑)。別の友人には、『同僚の女性が相次いで産休に入って複雑な気持ちだったけれど、これが“ざわつく”だったのね』と告げられました。思うより彼女たちに嫉妬してたのかも、とも。自分が持てなかったものを手に入れようとする人に嫉妬するのは当然のこと。こんなふうに『ざわつく』という単語をうまく使って気持ちを昇華させてほしいです」

同作では、SNSの恐ろしさにも気づかされる。佐和子の料理教室の生徒・雪乃。料理の腕を磨くためではなく、「いいね!」をもらうために躍起になって、本来の目標を見失う。

「桜が咲く頃に皇居周りをランニングしていると、多くの人が、スマホで競うように撮影しています。画面越しにしか花を見ていないんです。きっと、SNSにアップしたりしているのでしょう。目的がすり替わっていて、本末転倒になっているなと。自分の目に焼き付けるように静かに桜を愛でるような、粋な人になりたいですね」

双葉社 1,400円

『クロワッサン』967号より

この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

SHARE

※ 記事中の商品価格は、特に表記がない場合は税込価格です。ただしクロワッサン1043号以前から転載した記事に関しては、本体のみ(税抜き)の価格となります。

人気記事ランキング

  • 最新
  • 週間
  • 月間