『ABC殺人事典』歌田 年 著──遊び心がたっぷりの軽やかミステリー集
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
収録されたショートミステリーはじつに二十六編。「A」から「Z」までのアルファベットがモチーフで、これがじつに凝っている。
「A チーム」は、父親を亡くして以降、オジキの世話になっている少年・英治が主人公。父親とオジキは数々の犯罪に手を染めてきた悪党仲間で、少年もそんな世界に憧れを抱いている。いよいよ仕事を手伝えることになった彼だが、オジキは他の仲間内で使うコードネームを英治にはつけてくれない。それはなぜか。「B 理由」では、「“B級”と聞いて何を連想するか」という街頭インタビューを受けた男が、とある映画監督の死について語り始める。彼はなぜ死んだのか。
どの話もちゃんとタイトルにあるアルファベットが絡んでくるので、まずその工夫が楽しい。それだけでなく、さまざまなミステリーの手法も盛り込まれ、有名作のパロディと思われるものもあって遊び心たっぷり。巻末の「附記」も情報がマニアックで笑った。
ちなみに書名に「殺人」とあるけれど、人が死ぬ話ばかりではない。どの話もひねりとユーモアがたっぷり。仕事の合間の休憩時間や寝る前の、ちょこちょこ読める頭のストレッチ本としてうってつけだ。
『クロワッサン』1176号より
広告