互いに楽しく健やかでいられる。“年の差友達”のすすめ
撮影・黒川ひろみ 文・黒澤 彩
研究結果に見る世代間交流のメリット
心の健康度がアップする
高齢層にとっても若年層にとっても、世代を超えた交流が心の健康にいいということを示しているのが、上のグラフだ。
「注目すべきは、若年層も世代間交流がある人のほうが、心の健康状態がいいということです」と話すのは、多世代交流と健康の関係を研究している藤原佳典さん。
また、別のデータによると、高齢者よりも20〜50代の現役世代のほうが孤独を感じているという。
「見かけ上は人と一緒にいても、孤独な人が多いということでしょう。同年代だと、分かり合えるだろうという期待がある分、そうではなかったときに失望したり、ひがみのような感情が芽生えますが、世代が違う人とは、初めから違いを認め合うことができます。同世代の中で感じる孤独感や閉塞感を和らげる意味でも、世代を超えた交流はいいのだと思います」
シニア世代にとっては、若い人に何かを伝え、喜ばれることで心にいい影響がある。
「心理学の用語でジェネラティビティといって、人はある程度の年齢になると次世代に想いを馳せ、文化や知恵を継承させたいという欲求が出てくるものです。現役時代に背負ってきたものを下ろして、純粋に次世代の役に立てることが心の健康にも繋がります」
人間関係が円滑になる
こんな事例がある。同世代の若い職員が多く、激務なこともあってギクシャクしていた介護の現場に、補助人材としてシニアのパートを採用したところ、プロの介護士の負担が軽減し、コミュニケーションも円滑になり、明らかに職場の雰囲気がよくなったそうだ。
「これは、雑務を減らせたこともメリットですが、それだけではなく、職員たちよりずっと年上の“おばちゃん”たちとのコミュニケーションがガス抜きになっていることも大きいでしょう。出世や成果を争う横並びの関係でもなく、上下関係でもない。いわば斜めの関係の人が入ることで、その場の人間関係がよくなることが往々にしてあるのです。年の離れたシニアはそれに適した存在といえます」
コミュニティが活性化する
地域活動などにおいても、多世代型のコミュニティのほうが長く続く傾向があるという。
「世代によって得意なことが違うので、持ちつ持たれつが成り立つわけです。若い人は高齢者が苦手なSNSなどを駆使できますし、高齢者は地域に顔が利いたりします。お互いにリスペクトを持って多世代が助け合うコミュニティほど、うまくいっているようです」
年の差友達は、多くの場合、何かしらの社会活動やコミュニティの中から発展していくもの。世代の異なる人と付き合うに当たっては、やはり年長者の側が腰を低くし、若い人に合わせる意識を持つことが大切だと藤原さん。
「それを苦痛に感じず楽しめるなら、素質があるといえそうです」
“年の差友達”を描く作品は、なぜ胸を打つのか
老婦人と学生が交流する2作品
『エレノアってグレイト。』
親友を亡くした老婦人エレノアと、母を亡くしたジャーナリスト志望の学生ニナ。エレノアのある「嘘」をきっかけに、年の離れた2人が心を通わせていくのだが、やがてその嘘が大騒動に発展してしまう。主演は96歳のジューン・スキップ。この脚本に魅せられたというスカーレット・ヨハンソンの長編初監督作品でもある。
監督:スカーレット・ヨハンソン
出演:ジューン・スキップ、エリン・ケリーマンほか。6月12日より新宿バルト9ほかで全国順次公開
新しくもあり、普遍的でもある年の差友達を描いた作品が、各ジャンルで話題を呼んでいる。
スカーレット・ヨハンソン監督作の映画『エレノアってグレイト。』では、祖母と孫ほども年の離れた2人の女性が心を通わせていく様子が描かれている。
この映画について、「喪失を抱えた人の悲しみ、境遇に共感できました。私も小学生の時に父を亡くしていて、高校生くらいまでは父の話をするだけで自然と涙が出てしまうことがあったので、親友が急死してしまったエレノアと、お母さんを亡くしたニナの気持ちがよくわかる気がします」と語るのは、漫画家のたらちねジョンさん。たらちねさんの最新作『海が走るエンドロール』もまた、高齢の女性と若者との交流を軸に展開するストーリーだ。主人公は、65歳から美大に入って映画監督を志した茅野うみ子。
「学生たちとの関係を描くときは、うみ子さんに自虐的なことを言わせないようにしようと思いました。私自身も年下の人に対して、意味もなく年齢のことを卑下してしまったことがあって。それって相手に気を遣わせるだけだし、自分も傷つくし、何もいいことないですよね。ただ、年齢差を意識しなくても体力差は絶対にあるので、その部分は、リアリティを持たせるためにしっかり描いています」
『海が走るエンドロール』
夫と死別し、数十年ぶりに訪れた映画館で1人の美大生と出会った65歳の茅野うみ子。自分は映画を撮りたい側の人間だと気づいて美大へ入学し、学生たちとの交流を通じて自分の心を問い直しながら創作に向き合う姿を描いた物語。全9巻(秋田書店)
うみ子とエレノア、どちらも魅力的な女性だが、タイプがだいぶ違っているのも面白い。
「うみ子さんは、誰が見ても感じのいい人。エレノアは全方位にいい人ってわけではないような? でも、どこか飛び抜けた魅力があって、映画を見終わったあとは、みんな彼女を好きになっているはずです。エレノアは私の母に似ているんですよ。素直に褒めないで、いつも余計なひとことを言ってしまうところとか」
そんな等身大の主人公たちと、ごく自然に友情を育む若者たちもまた魅力的な存在だ。
「年の差があるからといって線を引くのではなく、ただ人として気遣い、思いやることのできる関係性。私たちはそこに胸を打たれるのだと思います」
『クロワッサン』1166号より
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