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『みちのく民話まんだら 民話のなかの女たち』小野和子 著──語り継がれる民話のなかに生きる、人びとの夢と願い

東京生まれ、大阪在住。『家から5分の旅館に泊まる』『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』など著書多数のライター・スズキナオさんが紹介する一冊。

文・スズキナオ

『みちのく民話まんだら 民話のなかの女たち』 小野和子 著 PUMPQUAKES 2,420円
『みちのく民話まんだら 民話のなかの女たち』 小野和子 著 PUMPQUAKES 2,420円

令和の時代を生きる私たちが「民話」に触れる機会はそれほど多くはないと思う。私が子どもの頃は、テレビアニメ『まんが日本昔ばなし』シリーズが放送されていて、そこで語られる奇想天外なストーリーを楽しみにしていたし、昔話を題材にした紙芝居や絵本を母親が読み聞かせてくれた。

1934年、岐阜県に生まれた小野和子さんは、結婚を機に東北の宮城県に移り住み、1969年から東北各地の民話を聞き歩く活動を始めた。小野さんにとって、民話はそれ単体で存在するのではなく、それを語ってくれた人と分かちがたく結びついている。

民話を聞かせてくれた人がどんな生活をしてきて、その人生の中でどんな民話を大切にしてきたか、その背景までを含めて丸ごと受け取るようなスタイルで、その活動のことを小野さんは「民話採集」ではなく、「民話採訪」と名付けている。語り手のもとを訪れることが何より重要なのだ。

本書は、小野さんが採訪してきた選りすぐりの民話の中から、印象的な女性たちが登場する19篇とその民話を小野さんが読み解く「あと語り」とを収録したものだ。

たとえば、『眠かけおそよ』という民話は、おそよという娘が百姓家に嫁に行くところから始まる。しかしおそよは日が沈むとどうしても起きていられない性質で、すぐに寝込んでしまうから、嫁ぎ先から離縁されてしまう。そのうち別の家に嫁ぐことになったので、今度こそはと、おそよの母もついていって様子を見守る。しかしおそよは眠り、みんながそっちに気を取られていたせいで囲炉裏端の麻に火が燃え移り、婿どのの草鞋編みもうまくいかない。

そこで物語は大きく展開する。おそよがどうしても夜に眠ってしまうのならと、明るいうちにみんなで一生懸命働いて、夜は夫婦揃ってさっさと寝ることにした。それからは揉め事もなく、2人仲良くいつまでものんびり暮らしたとさ、という話である。

その後に続く「あと語り」で、小野さんは、民話の語り手の女性たちの多くが睡眠不足のつらさや、夜なべのきつさに苦労してきたのだと書いている。

東北の山村に暮らす女性たちは、朝から晩まで必死に仕事をして、そんな厳しい毎日の中で、子を産んで、その子を育てて、それでもなお「寝姿を見せるのは女の恥」という古い価値観に縛られていた。

そのような背景を踏まえてもう1度先ほどの民話を読み直してみると、どうしても眠気に勝てないおそよが、眠ることを我慢せず、むしろ自分を貫くことによって結果的に人生を打開していく様が、この民話を語った人々を力づけたであろうことが想像されてくる。

人から人へ語り継がれてきた民話の隅々には、ままならない現実を生きた人々の切実な願いや、夢見た人生が刻まれている。

小野さんの「あと語り」をガイドにして読み込んでいくと、誰もが知っているような昔話でも、その背後に隠れたものが改めて見えてくるから楽しい。日々の生活と民話との距離を感じる今だからこそ読みたい1冊だ。

  • スズキナオ さん

    ライター

    東京生まれ、大阪在住。『家から5分の旅館に泊まる』『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』など著書多数。

『クロワッサン』1166号より

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