名作はなぜこんなに面白いのか——時を超え読み継がれる理由「日本文学」編
撮影・黒川ひろみ イラストレーション・いとう瞳 文・辻さゆり
感性をスパッと表現する『枕草子』
三宅香帆さん(以下、三宅) 平安時代は女性の書き手が生き生きと活躍し、『枕草子』や『源氏物語』を読むと彼女たちの声が聞こえてくるような気がします。だから去年、大河ドラマでこの時代の女性たちがクローズアップされて、とてもうれしかったです。
大岡玲さん(以下、大岡) 清少納言は世間的には毒舌家と思われていますが、良い悪い、おもしろいつまらないといった価値判断がはっきりしているところが現代的です。「この感性わかる?」というような、今に通じるおしゃれエッセイという面がありますね。
三宅 『枕草子』を初めて読んだ時、夫がなんと言おうと女性も働いたほうがいいとはっきりと書いていることにびっくりしました。
大岡 紀貫之が女性を模して『土佐日記』を仮名文字で書いたのが文学の始まりです。それまで文章は漢文で書かれていたのを、口語体で書いた。つまり初めての言文一致です。自分に続き、口語体を使って生き生きと書いてくれる女性の登場を期待したんじゃないかと個人的には思っています。で、清少納言と紫式部はその期待に十二分に応えたと言えるのではないでしょうか。
三宅 平安時代の政治的な日記は漢文で書かれていましたから、紀貫之は内面の機微や感情を日記で表現するには女性の言葉、当時でいえば仮名で書かれた口語体でないと書けないと思ったということですよね。『土佐日記』は清少納言も読んでいたのでしょうか。
大岡 そういう言及はありませんが、きっと読んでいたと思います。清少納言は自分の感性をスパッと文章によって表現できる快感みたいなものを感じていたんじゃないかなあ。
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