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死んだ後の住処も選べる時代になった。人生の終わり方について話そう。

血縁関係が希薄になりつつある時代、仲間やペットと納骨されることができる社会になってきました。

撮影・高橋マナミ 文・神舘和典

日本で今も行われている土葬。厳しくなった献体の条件。

布川 お墓がなくなるとは、私は考えたこともありませんが、そうなると、自分を育ててくれた親や先祖を思う機会は失われませんか?

小谷 墓石がなくても、胸に手をあてたり、空を見たり、親や祖父母を思い出して感謝することはできます。

布川 実際に、たとえばお墓が遠方だとそうせざるを得ませんからね。現実的なことを言うと、お墓参りをするかどうか、どれだけ大切なのかは、自宅とお墓との距離によるのかもしれません。うちの共同墓には毎日手を合わせにいらっしゃる人がいます。その方にとって、お墓参りはとても大切な行いです。でも、毎日お参りできるのは近いからです。

小谷 日本は火葬が主流ですが、その歴史は浅いです。かつて土葬していたころは、お墓は集落のはずれにあって、ふだんはお墓参りをしませんでした。お墓参りの習慣は火葬になってからなんです。

布川 今の日本にも土葬はありますね。

小谷 火葬場のない離島だと土葬するしかありませんし、イスラムは教義上、火葬ができません。日本に住むイスラムの方が亡くなると、土葬をしますが、今後、国際化が進む日本では、土葬墓地の不足が問題となります。

布川 遠いと飛行機や新幹線でお墓参りに行くのは大変なので、お寺での法要を減らす傾向があります。十三回忌くらいまでで終わりにする。お寺の存続は経済的に大変です。

小谷 遠くのお墓を墓じまいして、布川さんの共同墓に入られる方もいらっしゃるでしょう?

布川 増えています。ただ檀家が去ると、やはりお寺の収入減になるので、話し合いが大変のようです。「出ていきます」と言うと、相手を刺激します。お寺さんのほうが「終わりにしましょう」と言うまで誠実に話し合うことが大切ではないでしょうか。

小谷 時間がかかりそうですね。

布川 自分の子どもや孫に面倒をかけたくないという理由で、大学病院に献体する方もいました。でも、難しくなってきたみたいです。

小谷 10年くらい前から条件が厳しくなりました。今は献体する人と遺る人を面接する大学病院が多く、遺骨の引き取りが条件になっていることが多いです。

布川 一人で亡くなった方の骨はどうなるのでしょう?

小谷 行政に持ち込まれる引き取り手のいない遺骨が増えて、社会問題化していますね。地域差もありますよ。関東の火葬場は遺骨を全部持ち帰らなくてはいけませんが、関西では置いていける火葬場もあります。

布川 関西でも一部は持ち帰らなくてはいけないと思っていました。

小谷 本人の生前の意思があれば、遺骨を全部置いて帰ってもよい火葬場が少なくありません。東京にも遺族が希望すれば、遺骨を合葬してくれる火葬場もあります。

布川 一人暮らしの方にとってはありがたい情報ですね。

犬、猫、羊、メダカ……。ペットと弔われたい人も。

小谷 布川さんのところの墓地は、樹木葬ですよね?

布川 はい。土に還れるように感じて。うちの樹木葬で初めて納骨したときのことは今もよく覚えています。風がそよいで、小鳥がさえずって。あのときほっとしたのかもしれません。生前に面識のない方の納骨でも、涙があふれてきました。うちは墓地というよりも公園のような雰囲気です。お墓参りのときは、ベンチでピクニックのように飲食していますよ。

小谷 知り合いで、夫に先立たれた女性は霊園でコーヒー豆を挽いて飲んでいます。夫の好物だったから、と。

布川 うちはくつろげるようにチェアも置きました。私自身のときも樹木葬がいいな、と思っています。

小谷 私は自分自身が死んだ後の骨やお墓は、あとの人たちの好きにしていただいていいかな。お墓は残された人のためにあると思うので。誰と一緒に安置されてもいいし、遺骨を処分してくれてもいいです。お葬式にも、こだわりはないです。

「石のお墓に葬る文化はなくなっていくのでは。」小谷さん 「ピクニックのように法要を楽しんでいます。」布川さん
「石のお墓に葬る文化はなくなっていくのでは。」小谷さん 「ピクニックのように法要を楽しんでいます。」布川さん

布川 なんて潔い。

小谷 死後の世界を信じていないんです、なんの宗教も信じていません。だから、遺骨は捨ててもらってかまいません。ただ矛盾することを言いますが、遺骨が乱暴な扱いを受けない誠実な生き方を心がけてはいます。親や子のような縦の血縁関係だけでなく、横のつながりを大切にして暮らさなくてはいけないとも思っています。布川さんの共同墓も横のつながりですよね。

布川 はい。実際に、家族よりも友人が大切だと考える方は多いです。また、家族よりもペットと同じお墓に入りたい人も珍しくありません。

小谷 自分にとって大切な存在は人間とは限りませんから。犬や猫や馬かもしれません。先日、じいちゃんやばあちゃんは家族じゃないけれどメダカは家族、と言う学生がいて、私ひっくり返りそうになりました。その学生の祖父母が聞いたらショックでしょうね。

「メダカが家族と言う学生には驚きました。」
「メダカが家族と言う学生には驚きました。」

布川 馬のたてがみと一緒に埋葬されたいと、持ってこられた方はいました。

小谷 そういう面で樹木葬は許容範囲が広いですね。私は自分の骨は捨てられてもかまわないけれど、みなさんには「自分の最期を考えておきましょう」と提案しています。それには、正しい情報を得て、知っておいてもらいたい。

布川 お墓については、事実とは違う思い込みが多いですね。

「馬のたてがみと埋葬されたい方もいました。」
「馬のたてがみと埋葬されたい方もいました。」

小谷 入るお墓がないことを心配している人がたくさんいらっしゃる。でも公営墓地でも、6親等まで同じお墓に入れます。結婚して名字が変わったら実家のお墓に入れないとか、次男からは同じお墓に入れないと言う墓石屋さんもいますが、それは売るための口上。いとこ関係が4親等なので、かなり離れている親戚も一緒に入れます。

布川 民間の霊園なら、籍の入っていない男女からペットまで一緒に入れる例はあるので、思い込みで判断はせず、きちんと確認することは大切ですね。

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