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死んだ後の住処も選べる時代になった。人生の終わり方について話そう。

血縁関係が希薄になりつつある時代、仲間やペットと納骨されることができる社会になってきました。

撮影・高橋マナミ 文・神舘和典

「 私はお墓も葬儀もなくていい。 死後の世界も宗教も信じないから。」(死生学研究者 小谷みどりさん ・左)「 初めて樹木葬の納骨に立ち合って、涙があふれてとまりませんでした。」(NPO法人「スノードロップ」代表 布川智恵子さん ・右)
「 私はお墓も葬儀もなくていい。 死後の世界も宗教も信じないから。」(死生学研究者 小谷みどりさん ・左)「 初めて樹木葬の納骨に立ち合って、涙があふれてとまりませんでした。」(NPO法人「スノードロップ」代表 布川智恵子さん ・右)

昭和時代前半の日本では、三世代同居の大家族は一般的でした。1960年代に、核家族が急増。その後は独身世帯や、一人親の家庭が増え、社会の変化で人生の終わり方がさまざまになりました。お墓の在り方も変化しています。学者として死生学を研究する小谷みどりさん、女性の共同墓を主宰する布川智恵子さんに、人の終わり方について話してもらいました。

小谷みどりさん(以下、小谷) 社会が変わり家族のかたちが変わると、人の死も変わります。私はこの30年間、人の最期を見ることで、社会の変化を見てきました。

布川智恵子さん(以下、布川) 小谷さんのおっしゃるとおり、人の亡くなり方は時代とともに変わってきましたね。かつて私は葬儀社さんにお寺を紹介する仕事をしていて、そのころからずっと感じていたことです。

小谷 布川さんが共同墓を始めたのはいつごろでしょうか。

布川 17年前です。孤独死された方のお骨を1万円で引き取ってくれるお寺を探してほしいと、知り合いの葬儀社さんに相談されました。ショックでした。何十年も生きた大人がたった一人で亡くなり、しかも2,000円しか持っていなかった。必死にお寺さんをまわり、頭を下げました。そのときに、「数年のうちに共同墓を建ててお引き取りに来ます」と約束しました。

小谷 それを有言実行されたのが今運営されている共同墓ですね。

布川 一人で亡くなる方が増えていることを皆さん感じていらしたのでしょう。多くのお寺さんや葬儀社さんから計500万円、寄付金が集まりました。お寺さんが提供してくれた土地に共同墓を建てたのが始まりです。私自身離婚を経験し、娘が2人いますけれど、自分が入るお墓はないので、10年ほど前に女性だけの共同墓があったらいいな、と思ったんです。すると、同じように考える女性が多かった。家族と暮らしていても義父や義母との折り合いがよくなく、夫の家の墓に入りたくないと話す方も少なくありません。

コロナ禍を経たことで墓参りが減る傾向に。

小谷 脱・血縁のお墓、求められていますね。石に「○○家の墓」と彫ったスタイルが日本ではずっとスタンダードでした。でも、社会に合わなくなっています。女性だけの共同墓をはじめ、血縁を超えたお墓は増えています。大学で教えていると、今の学生たちの多くが祖父母を「家族」と思っていません。「親戚」と呼びます。核家族で、同じ屋根の下に暮らしたことがないからでしょう。

布川 お墓を建てること自体をやめようと考えている人も増えてきていますね。原因の一つに、私は東日本大震災の影響を感じています。地震や津波でお墓が壊されて流される映像を多くの人が見てしまいました。どんなに立派なお墓を建てても、それは永遠ではありません。だったら、最初からなくてもいいんじゃないかと考えるようになったのではないでしょうか。実際に、震災後は墓石を購入する人が減ったと、石材店からも聞きました。

「震災では立派なお墓も壊れました。」
「震災では立派なお墓も壊れました。」

小谷 コロナ禍の影響も大きいと感じています。緊急事態宣言下では、お墓参りができませんでしたよね。日本人がずっと行ってきたお彼岸やお盆の習慣が途切れました。それでも生活上困ることは特にないので、コロナが収束してきてもお墓参りの習慣が戻らなくなったのでは。実際、墓じまいする人が増えているそうです。

布川 私のところの共同墓では年に一度、供養祭を行っています。コロナ禍の前は300人ほど集まっていました。ところが、コロナで行動制限されて縮小せざるを得なくなった。その後、感染が落ち着いても、人数は減ったままです。今は100人くらいでしょうか。小谷さんのおっしゃるように、お参りしなくても実生活で困ることがないと気づいてしまったからでしょう。なんのためにお墓参りをするのか、みんなが考え始めたのかもしれません。

「コロナで法要が変わりましたね。」
「コロナで法要が変わりましたね。」

小谷 お墓参りについて、ひいてはお墓の在り方について考えるようになったのはいいこと。私はそう思っています。お墓は、そこに入る人とお参りする人、双方がいてこそ成立します。でも、血縁をはじめ人と人との結びつきが希薄になると、お墓の役割は遺骨置き場にすぎなくなる。お参りする人がいなくなるなら、そんなに立派な置き場は必要ないと考える人は増えるでしょうね。30年後には、お墓に納骨するという習慣もなくなっているかもしれません。

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