考察『光る君へ』33話 中宮女房ズメンバー紹介!道長(柄本佑)からまひろ(吉高由里子)に贈られた檜扇にはきらめく水辺で遊ぶ、あの日のふたりが…
文・ぬえ イラスト・南天 編集・アライユキコ
中宮女房ズ!メンバー紹介
32話 (記事はこちら)のラストで、ずらりと居並びまひろ(吉高由里子)を迎えた中宮女房ズ!紫式部が主人公の大河ドラマが始まると聞いたときから、彼女達が出てくるのを心待ちにしていた。なにしろ紫式部自身が『紫式部日記』で書き伝えてくれた、個性豊かな面々である。それが活き活きと動き出すのだ、これぞ実写化の醍醐味!
では最初にちょっと、メンバーを紹介してみよう。
一番前に座っている女性……宮の宣旨(小林きな子)。役職としての宣旨(せんじ)とは女房集団のトップ。后の側近中の側近であるので、血筋だけでなく教養もトップクラスの女性でなければ任されない大切なポジション。宮の宣旨は醍醐天皇の曽孫である。
彼女のすぐ後ろで、目配せしあうふたり。中庭の側に座っている宰相の君(瀬戸さおり)は道長(柄本佑)の兄・道綱(上地雄輔)の娘。
室内側に座っているのは大納言の君(真下玲奈)。道長の妻・倫子(黒木華)の姪にあたる。
大納言の君のすぐ後ろは小少将の君(福井夏)、大納言の君の妹……つまり彼女も倫子の姪。
自分の局(つぼね)に案内されたまひろが「私も皆さまのお手伝いをしたいです」と申し出た際、「お手伝い?(本来なら女房である、あなた自身の仕事なのよ?)」ピキッと聞きとがめたのは左衛門の内侍(菅野莉央)飛鳥時代から続く橘氏の出身である。
その隣は馬中将の君(羽惟)。道長の妻、明子(瀧内公美)の姪だ。
どの女房も高貴な血筋でガッチリ固められている。
微笑んでくれる赤染衛門先生(凰稀かなめ)の存在感といったら! まひろと一緒に安心する。
ところで、まひろの女房名である藤式部。紫式部ではないの?って思いますよね。出仕した当初は「藤式部」であったのだそう。「紫式部」と呼ばれるようになる経緯は、この先の見どころのひとつだろうから、その時を楽しみに待とう。
20年の時を経ての意趣返し
与えられた局でいざ執筆に取り掛かろうとするものの、横をパタパタと走り抜ける女童(めのわらわ)達。落ち着かないまひろだが、この場面は女童の白い汗衫(かざみ)が美しい。
公任(町田啓太)と斉信(金田哲)の来訪。ここで慌てて檜扇で口元を隠すまひろ……レビュー第1回(記事はこちら)で述べたとおり、この作品は帝の后でさえ男性の前で顔を隠していないので突然どうしたのかと思ったが、その後の場面と合わせて見ると、どうやら檜扇は内裏女房の必須アイテムとして演出に入れたらしい。そういえば今までも内裏のシーンでは、ヒソヒソ噂話女房さんたちは口元に檜扇を当てていた。
中宮女房ズについて「見栄えはしても鈍いのは困るなあ、ハハハ」など言いたい放題のふたりに、うふふふと低い声で笑ったまひろが
「私のような『地味でつまらぬ女』は、己の才を頼みとするしかございませぬ」
と返した言葉に「ん? 」とひっかかる公任、斉信コンビ。これは7話(記事はこちら)の打毬試合の後、ロッカールームでの勝手な暴言に一矢報いたものだ。あれは寛和元年(985年)だったから寛弘2年(1005年)の今、20年の時を経ての意趣返しである。まひろさん、かなり根に持つタイプ……さすがです。
そして書き始めたのは『源氏物語』第二帖「帚木」の、「雨夜の品定め」に発展すると思われるネタのメモ。「打毬 雨 受領品 片かどもなき人(ちょっとした取柄さえない人)」
ふたりのおかげで捗りますね。
次のシーンでは優雅ではあるが「暖簾に腕押し」といった風情の中宮女房ズの仕事ぶりが見られた。
斉信がまだそこにいるのに、大きめの声で「聞きたいことなど、ありませんわよねえ」と聞こえよがしに言う左衛門の内侍。「中宮大夫様(斉信)は何につけ偉そうになさりたいだけよ」と相槌を打つ馬中将の君。
斉信は「中宮様にお伝え申せと言っても伝わらぬし言ったことはやらぬ」「鈍いのだ」と彼女たちを嗤っていたが、どうも中宮大夫としての彼が舐められているというのが実情のようだ。
威圧的にふるまえばふるまうほど小馬鹿にされる女子校の先生を思わせる。
藤式部は父の位が低いのになぜ中納言(公任)らと親しいのかという話題から、まひろが四条宮和歌教室の講師であったこと、赤染衛門の生徒でもあったことが皆に伝わる。その場面の各人の表情から、少なくとも「学がおあり」であることは中宮女房ズに好意的に受け取られたようだ。一部を除いて。
「ないしょ」彰子の素顔!
珍しいアングルで女房達の私室、局の様子を見せるシーン。まひろの部屋は執筆スペースを確保したためか他の女房よりも広い。
壁ではなく壁代という布地で隔てているだけなので、寝言もいびきも丸聞こえだ。日中は重い女房装束を身に着けて忙しく立ち働いて、全員疲れてるものね。お疲れ様です。
……と思ったら殿方が迎えに来て、こっそり出ていく女房がいる。それは朝になり着替える場面でわかった。小少将の君の隣だから、大納言の君か。
「お目覚めあれ!」という声とともに半蔀(はじとみ)が上げられ、女房たちの一日がスタートする。着替え、洗顔、化粧……身支度をする様が美しく、見ていてとても楽しい。
しかし、慣れない環境でおそらく夜明けまで眠れなかったまひろは思いっきり寝坊してしまう。本当に赤染衛門先生がいてくださってよかった!
そこで飛び出す嫌味「誰ぞのおみ足でもお揉みにいらしたのではないの?」
赤染衛門先生からそっと教えられるその意味は……足を揉みにゆく=夜伽に召されるということ。女房というものは内裏で仕える存在ではあるが、夜伽が「役目」となるのは想定していなかった! というまひろの顔。
あの、先生。質問です。それは嫌なら拒否できるものなのですか。デキる女房は素晴らしく気の利いた和歌でお返事して突っぱねたりするものなのでしょうか。17話(記事はこちら)で斉信と清少納言(ファーストサマーウイカ)のそうした関係が示された場面を思い出す。
そして昨晩の大納言の君は、夜伽に召されたのか、それとも恋人が迎えに来たのか。頼む、恋人であってくれ!ドラマレビュー4回(記事はこちら)でも述べたが、主人と性的な関係にある女房を召人(めしうど)という。大納言の君が召人であること「それはナシ」という展開でありますように。
中宮大饗(新年2日に中宮が主催する饗宴)で、御簾越しに廷臣達の礼に応える彰子(見上愛)。灯に照らされ浮かび上がる、その美しさ──まひろの目を借りて1000年前の宮中の様子を見ているようだ。
そして同じくまひろの目を借りて見る、彰子の素顔! 敦康親王(池田旭陽)に「ないしょ」とお菓子を渡すいたずらっぽい微笑みのなんと素敵なことだろう。
物憂げに目を伏せている表情しか知らない一条天皇が見たら、一発で恋をしてしまうのではないか。
かつての三郎が蘇る
日中の勤務で疲れて夜は筆が進まない、昼は周囲が気になって集中できない。
ついにまひろは「無理」となって筆を置く……一瞬映った筆置が御所車の形で、とっても可愛い!
里に帰って執筆したいというまひろの申し出。
「書きたい気持ちのときに書かねば物語は勢いを失います」
物語に限らず、全国の創作者が「ほんとそれ! 勢い大事!」となったのではないか。
しかしそれを却下する道長だが、
「内裏での様々なことを見聞きし、物語の糧にするとも申しておったっ!」
この「申しておったっ!」の言い方が、やや子どもっぽい。まひろと相対するときは一瞬でかつての三郎が蘇る。そして彼が里に帰るな、ここで書けという言葉には、藤壺に帝をお招きせねばならないからという理由が大前提としてあるのだが、その声と表情にまひろを手放したくない……傍に置いておきたいという男としての心を感じるのは気のせいか。
しかしここが非常に微妙なところなのだけれども、彰子の女房として勤め始めたまひろは道長と関係を復活させると召人となってしまうのではと……。召人は妾よりも更に不安定な立場。妻の一人ですらない、カウントされない存在なのだ。過去、妾になることを断ったのはまひろなのだが、この先ふたりの心がどうであれ、ソウルメイトが召人となっていいのかと……気が気でない。できればまひろにはもう触らないでね、道長。自らの意志で愛する人を公の場に出してしまった。もうかつての関係ではない。
この国を変える、それは道長にしかできない。お互いに己の使命を果たすのだということを六条の廃屋で誓った。自分の作品が本当に帝の心を捉えるのか……今は不安を抱えていても、まひろはこの国のために物語を書く。続きの執筆を約束してようやく内裏から下がることが許された。
私が好きなのは青
里に下がるご挨拶のために中宮・彰子のもとを訪れたまひろが目にしたのは、静かに空を眺める中宮……冬が好き、空の色が好き。私が好きなのは青。ここで初めて、彰子が自分の心の内を他の人に明かす台詞が出てくる。なぜまひろに、と思いこの場面を見返してみると、まひろはこう声をかけている。
「お寒くはございませんか?」「炭を持ってこさせましょう」
まず中宮を気遣い、いま佇む場所から動かなくても寒くないように計らおうとした。彰子自身の気持ちを尊重しての言葉に、少しだけ心を開いたのか。その直後に左衛門の内侍がやってきて、
「中宮様、こんなところでお風邪を引かれたらいかがなさいます(御簾を下ろさせて)さあ奥へ」
同じく寒いだろうからと気遣っているのだが、空が見えない場所へ移動させる。彰子からすると、まひろの気遣いの方が気持ちにそっているのだろうか。
しかし彰子は、左衛門の内侍の言葉を否定してしまうと彼女の立場がないと判断して逆らわないのかも……自分が好きなのは薄紅色ではなく青だということを皆の前で言わなかったのも同じ理由か。奥ゆかしいだけでなく、上に立つ者としての器があるように思える。32話で「お上はいかがあそばされたかと」と火事現場に残っていたことといい、自分のことよりも他者に考えが及ぶのは道長の血だろうか。
彰子のことを(興味深い……)と捉えたらしき、まひろの表情が印象的だった。
「雨夜の品定め」を読み聞かせてみた
質素ながらも和やかで賑やかな実家。
「追い出されたのでございますか!?」ではなく「追い出されたのでございますね!」と断定して叫ぶ、いと(信川清順)に笑ってしまった。そして8日間の取材旅行に「8日もご苦労なさったのでございますね」と涙ぐむ乙丸(矢部太郎)と、皆に聞こえないようにそっと「いじめられたの?」と聞いてくれる惟規(のぶのり/高杉真宙)の変わらぬ優しさにホッとする。
落ち着ける環境に戻り、ぐんぐんと筆が進むまひろ。ところで、紫式部は実際に彰子の後宮に出仕したのち、数日経ってすぐに里に戻ってしまったことが『紫式部集』から読み取れる。内裏ですこしだけ会話をした女房に、
閉ぢたりし岩間の氷うち解けば緒絶えの水も影見えじやは
(うち解けにくい宮中の雰囲気が和らいでくれたら私も参内できるのではと思うのですが)
という歌を送っている。その女房からの返事は、
深山辺の花吹きまがふ谷風に結びし水も解けざらめやは
(中宮様の温かなお人柄によって宮中の氷のような空気も解けるのではないでしょうか)
このやり取りから、どうやら職場に馴染めなかったことがうかがえるのだが、このドラマでは同僚たちからの爪はじきの雰囲気は控えめで、どちらかというと作家として「創作に集中できないから」が帰宅の主な理由となっていることが面白い。
執筆が捗ったまひろは、『源氏物語』第二帖「帚木」の「雨夜の品定め」の段が固まり、惟規といとに読み聞かせてみた。品定めとはつまり、どんな女がよいのかと若い男同士で経験談を交えて語り合っているのである。「下品な殿御たちのお話」とドン引きするいと、男たちの本音トーク展開に「面白い!」とウケる惟規。
実際ここは紫式部の観察眼と深い洞察力が発揮されており、大変面白いのだ。
惟規「おおぜいの男と睦んだわけでもないくせに、よく書けるね」
言い方が酷すぎて笑ったが、このドラマでの紫式部……まひろは2話(記事はこちら)で代筆屋という職業を通して多くの恋愛模様と機微をつぶさに観察し、創作のための引き出しの中で温めていた。
そしてここで、おっ? と思ったのが、中宮・彰子様はうつけだって皆が言ってるよと言う惟規に「うつけではありません! 奥ゆかしいだけ」と、まひろが柳眉を逆立てた場面。
中宮・定子(高畑充希)を清少納言は崇めて忠誠を捧げていたが、まひろの中宮・彰子への思いは、守らねば、支えてさしあげねばという使命感となるのではないだろうか。
平維衡!
朝廷の除目で平維衡(たいらのこれひら)の伊勢守就任問題が取り上げられた。
維衡が伊勢の国司の座を巡って武力衝突をたびたび起こしていることを道長は問題視する。そんな人物を役職に起用するのは、朝廷がその行為を認めることに繋がるからだ。
平維衡! 大河ドラマファンが「おおっ」と身を乗り出す名前が出てきた。彼の父・平貞盛が大河『風と雲と虹と』(1976年)の主人公・平将門を討ち取った。平維衡は伊勢平氏の祖となり、115年後の子孫が2012年の大河『平清盛』の主人公だ。清盛なくして武士の世はなかった。そして『鎌倉殿の13人』(2022年)の時代へ。道長がここで危惧したように、血で血を洗う世界に突入してゆくのである。
この場面では、隆家(竜星涼)が、朝廷、貴族たち自身が武力を持つべきではないかと述べる。居並ぶ公卿たちを覆う不吉な予感……。
帝がお気に召された物語を知りたい
物語の続きを献上に来たまひろに「帝がお気に召された物語を知りたい」と言う彰子。
ああ、定子も入内した時に「お上がお好きなものを私も好きになります」と一条帝に言っていたなあ……と思い出す。定子のように直接ハキハキと伝えることはないが、彰子も帝のことを思っている。年月を重ねて彼女自身でゆっくり育ててきたのだ。
これまでのあらすじをまひろから直接聞き「その光る君は何をするの?」と訊ねる……。
中宮様! この作者、この先はとんでもない展開を書くんですよ!と教えてさしあげたい。
そして続きが読めると聞き、一条帝が藤壺にお渡りになる。
「あの書きぶりは朕を難じていると思い、腹が立った」
しかし、読者として心を鷲掴みにされたゆえに「皆に読ませよう」という言葉が出る。これで彰子も一条帝と同じ作品を読める……帝と中宮、ふたり共通の話題ができる!
きらめく水辺で遊ぶ、まひろと道長!
道長からまひろへの、褒美という名のプレゼント。女房の必需品、檜扇。そこに描かれているのは初めて会った日の思い出──きらめく水辺で遊ぶ、まひろと道長! そして小鳥!
道長、これを発注するに当たってどれだけ細かく指示したのかと想像させる再現度の高さ。
清い関係のままのふたりであったら、この贈り物の場面もさぞ清々しく映ったであろう……と思うと同時に、愛と欲望と執着と後悔、人々が苦しみ悶え、あらゆる業が入り混じる物語『源氏物語』を書く女は、そんなせせらぎのような恋だけを知っているわけではなかろうな!という気がする。「人間には光も影もある、複雑であればあるほど魅力を増す」──まひろと道長の関係は、この29話(記事はこちら)の台詞そのものだ。
都を練り歩く、大和・興福寺からやってきたコワモテ僧侶の一団!
「焼き払い奉る」という脅し文句で次回へ!
次週予告。
コワモテ僧侶強訴団、大内裏に乱入! 騒然とする後宮。道長と倫子の長男・頼通(渡邊圭祐)、宇治平等院の主が登場。曲水の宴、めっちゃ可愛い鳥が流れてる。道長はじめての御嶽詣。敦康親王が育ってる……元服間近?
34話が楽しみですね。
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NHK大河ドラマ『光る君へ』
公式ホームページ
脚本:大石静
制作統括:内田ゆき、松園武大
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろう
出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、吉田羊、ユースケ・サンタマリア、佐々木蔵之介、岸谷五朗 他
プロデューサー:大越大士
音楽:冬野ユミ
語り:伊東敏恵アナウンサー
*このレビューは、ドラマの設定(掲載時点の最新話まで)をもとに記述しています。
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