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考察『光る君へ』4話 五節の舞姫を務めるまひろ(吉高由里子)は気づいてしまった…花山天皇(本郷奏多)即位式に歴史ファンはハラハラ

大河ドラマ『光る君へ』 (NHK/日曜夜8:00〜)4話は「五節の舞姫」。舞台は平安時代、主人公は『源氏物語」の作者・紫式部。1000年前を生きた女性の手によって光る君=光源氏の物語はどう紡がれていったのか、その過程はどう描かれるのか。ドラマを愛するつぶやき人・ぬえさんと、絵師・南天さんが各話を毎週考察する大好評連載第4回です。
  • 文・ぬえ イラスト・南天 編集・アライユキコ

「娘の心を弄ぶのはよせ」

 『光る君へ』4話イメージイラスト「五節の舞姫を務めるまひろが見たその顔は!」/南天

謎の男・直秀(毎熊克哉)は散楽のメンバー、そして都を騒がす盗賊だった。第2話、第3話の「弟よ~!」も相手が右大臣家の道長(柄本佑)だとわかった上で仕掛けていたのだね……。

直秀は、アキの女御を演じている間、まひろ(吉高由里子)と道長の視線を誘導し、彼らがお互いに気づきやすいようにしている。ふたりの仲が深まっても幸せな未来は待っていないだろうから、道長とまひろを近づけたくはない。が、会えずに落胆する彼女の顔を見るのは忍びない。そういった思いからの「娘の心を弄ぶのはよせ」か……。
屋根の上から見下ろす直秀の心は痛むし、尻も痛む。

宣孝は気づいていた?

「大胆なことをやっておるなあ!」と大人の余裕で、道長からまひろをかっさらっていく宣孝(佐々木蔵之介)。
笑顔なのに笑ってない目をまっすぐ道長に向け「世話になったな」。身をやつしているとはいえ、官位は遥かに上のはずの道長がキョどる迫力である。まひろに市女笠を被せて貴族の娘にふさわしい身だしなみをさせ、馬に乗せて立ち去る。まるで女はこう守るのだと若者に見せつけるように。

まひろに、あいつには近づくなと忠告するのは、もちろん親戚の娘に悪い虫がつかないようにという配慮だろうが、宣孝は三郎が右大臣家の道長だと気づいたのではないか。この回の終盤、五節の舞姫の場面で、内裏に仕える貴族のひとりとして宣孝がいる。第1話で、まひろの父・為時(岸谷五朗)に当時大納言であった兼家(段田安則)に取り入るよう強く勧めたのは彼なのだ。為時よりは機を見るに敏な男が、兼家の息子たちをチェックしていないはずはないと思うが、どうだろうか。

「身分がなくなれば万民は競い合い、世は乱れるばかりとなる」。
佐々木蔵之介は過去の大河『麒麟がくる』で、戦国時代に百姓という身分から天下人となった豊臣秀吉を演じた。それを思うとニヤリとする台詞だった。

今週の赤染衛門先生

土御門殿姫君サロンで、自分の屋敷に盗賊が入ったことをウキウキと話題にする倫子。ずらりと並んだ果物、お菓子とともに真のお姫さまを感じさせる。
直秀&散楽団の盗賊一味が義賊であることは、まひろの世間話から示唆されるが実際のところどうなのだろうか。

さて、今週の赤染衛門先生の授業だ。
「今日は『竹取物語』についてお話しましょう」
物語について、それぞれの意見を述べる場面。ここで連想されるのは『紫式部日記』で式部自身が書き残した、友人と物語について語り合ったという思い出である。世間的には取るに足らないとされている物語だけれど、それを軸に仲間とやり取りした時間は現実の恥ずかしいこと、つらいことから逃れさせてくれたのだと。今でいえば、漫画や小説、アニメや映画、ドラマについて他の人の感想・批評を聞いたり読んだりする楽しさに似ているのではないだろうか。

そうした経験からか、紫式部は『源氏物語』第17帖「絵合」で、ある遊びについて書いている。宮中で絵を批評することが流行したため、藤壺の女院が女房たちを左右二手に分け、物語絵について論評する会を催された。絵だけでなく物語の内容にも踏み込んで議論白熱し、大変面白いこととなった……と。その中でのお題のひとつが「竹取物語」だ。

平安時代のひとびとに、今を生きる私たちと同じ楽しみがあった。それをドラマ内で表現してくれたことが嬉しい。

そして今週も姫君サロンでやらかすまひろ、しっかりと釘を刺す倫子。怖いけどいい場面だったねえ! 先週と同じく、まひろが暴走した時の姫君たちの表情がそれぞれいい。
「あちゃ~…」顔のしをり(佐々木史帆)、困ったように目を伏せる茅子(渡辺早織)、「この子、なに言うてんの」と眉根を寄せてまひろを見つめる肇子(横田美紀)。
彼女たちも年月が経ったのち、それぞれに「あの時はびっくりしたけど楽しかった」と振り返るのだろう。紫式部と同じように。

道隆の静かな笑み

真心を尽くして仕えた円融帝から、毒を盛った首謀者の疑いをかけられた詮子。

彼女の絶望も悲憤も、父と兄達には届かない。
空閨をかこつ女が取り乱しただけと一笑に付されてしまう。踏み躙られた者の怒りが、悲しみが「楽しい催し」くらいで薄れるものか。女を舐めすぎである。
なにが「吞み直そう」だ、詮子の代わりに膳を蹴散らして暴れたろか。

この場面で瞬時に事態を理解し「結束が強まった」と微笑む道隆(井浦新)。さすが兼家の子、藤原北家の嫡男というべきか。穢れなき存在に……と何も知らせなかった兼家の思惑を遥かに超えている、権力者としての素地を彼は自力で養ってきたのではないか。そしてこの「我ら三兄弟の結束」であるが、恐らく道隆には、父・兼家が経験した兄弟間の確執が念頭にある。

3話で「わしも三男だ!」という兼家の台詞があったが、兼家は長兄が重病で関白を辞した後、次兄・兼通と関白職を巡り争った。関白となった兼通は弟である兼家を冷遇し出世を妨害、更に自分の死の間際には次の関白に弟でなく従兄の頼忠(橋爪淳)を指名。兼家を右大将から治部卿に格下げしたのち亡くなるという、念の入った復讐を遂げた。そこからドラマ内の時間では現状右大臣まで昇っている、兼家のしぶとさとガッツよ……兄弟とはいえ、いや兄弟だからこそか。権力を奪い合う戦いは激しく、その次の代にまで影響を及ぼす。

道隆は静かな笑みと気品ある態度を保ちながら、常に弟たちの動きを窺っている……のではないだろうか。

願望がわかりやすい道兼(玉置玲央)大丈夫か。今週も大丈夫かって言っちゃう。兄に思惑まで全て把握されてないか。
そして心根が優しく穏やかな道長は、この父、兄姉の有様を見て今後どうするのだ。

新帝のご趣味にハラハラ

歴史ファンがハラハラしながら見守っていた花山天皇(本郷奏多)即位式。何しろ花山帝は、高御座(たかみくら)の中に女官を引っ張り込んで不適切な行為に及んだという逸話の持ち主だからだ。三種の神器を前に厳かに儀式に臨まれる帝に、よかった……夜8時台に全国のお茶の間が気まずくなる事態は避けられたとホッとしたのも束の間、入内した藤原忯子(井上咲楽)との閨で彼女の手首を縛る帝。雅なお顔で粛々となさるので儀式の一環かと勘違いしそうだが、新帝のご趣味、単なるプレイである。

なにしてんの。

ただこれ、為時相手に6年間続けたような一種の「試し行動」なのではないか。忯子が静かに頷き、帝のなさることを全て受け入れたからこその、その後のご寵愛ではと思っている。

花山帝が高御座で女官とコトに及んだ……というのは『古事談』に書かれ、他の奇行についても『大鏡』などに記されているが、花山帝を貶めるための捏造だとする説がある。このドラマ内では、道隆の「無類の女好きという噂を流します」という場面が先にあり、その効果が出て左大臣・源雅信(益岡徹)の耳にまで届き、忯子の兄・斉信(金田哲)にさえ病的な好色と言われている。

花山帝は世間の目を欺き、教師である為時の人柄を試すため、暗愚な女好きキャラをご自分で演出したがゆえにこんな噂を立てられてしまった。
ちやは(国仲涼子)殺害で父の道具として絡めとられた道兼といい、大なり小なり、自らの行いが自分を縛る枷となる作劇に見える。では、他の登場人物はこれからどうなるのか。

新帝の打ち出した「物の値段を為政者が決める」「帝自ら質素倹約を心がけ範を示す」は、いにしえの中国の皇帝、日本の天皇が行ってきた政策である。政は生物であるから、過去の政策をそのまま実行したからといって、その時代に即した善政になるとは限らない。が、「民たちも喜ぼう。そして朕を尊ぼう」。
東宮時代は為時の講義に熱心にお耳を傾け(授業態度は酷かったが)賢帝たちの逸話に胸躍らせていらしたかと思うと、いじらしい。癇癪を起こして側近の烏帽子を取り上げるなど大暴れだが、この作品の花山帝はかなりピュアなお人柄ではないだろうか。

しかし、側近・蔵人頭を固辞しようする実資(秋山竜次)といい、雅信からの入内提案を拒否する穆子(石野真子)と倫子(黒木華)母娘といい。この作品中随一、危機管理能力ありそうな人物たちが揃って花山帝と距離を置く選択をするのを見ると、帝の前途の暗雲を思わざるを得ない。

為時と乳母のやりとりに

まひろ父・為時、12年ぶりの官職獲得おめでとう。そしてさりげなく元服している太郎・惟規(高杉真宙)もおめでとう。

ところで、宴会のさなか厠に行く途中で乳母・いと(信川清順)の手を握り、
「お前にも、世話になった」
「殿…」
意味深な空気が一瞬漂ったこの場面。平安時代の貴族社会には「召人(めしうど)」がいたことを思い出す。妻とは別に、主人と性的な関係を結んだ女房のことだ。『栄花物語』『蜻蛉日記』などに、その存在を見ることができる。『源氏物語』では主人公・光源氏に仕える女房「中将の君(※この名の女房は複数登場する)」がそれにあたるだろうか。そして『源氏物語』第31帖【真木柱】では髭黒の右大将の女房「中将のおもと」「木工の君」という女性たちが、召人である自分たちの微妙な立場から複雑な心境を述べる場面がある。

為時と乳母・いととのやり取りに、深い意味はなかったのかもしれない。が、ドラマ内でも描かれているように強固な身分・階級制度が存在した時代の主従関係で、性行為への拒否権があったかさえ疑わしい召人たちに、名と言葉を与えた紫式部。彼女が主人公であるこの作品で、そうした女たちの存在を無視したりはしないのではと思っている。

五節の舞姫と紫式部

物語序盤のクライマックス、五節の舞姫。

私は嫌ですという倫子。父母である雅信と穆子は娘が好色な帝のお目に留まったらえらいことだと危惧するが、そもそも倫子はなぜ嫌なのか。映像作品としての演出上、ドラマではかなり緩くなっているが、当時の高貴な女性は基本的に異性に顔、姿を見られることはなかったのだ。重要な儀式とはいえ、深窓の姫君が人前に出るには抵抗があっただろう。

倫子の部屋に猫がいて紐で繋がれている。当時、高貴な人々に可愛がられていた猫はこの状態で飼われるのが一般的であったようだ。『源氏物語』第34帖「若菜上」では猫が紐で御簾を巻きあげて、女三宮がその姿を見られてしまう「事件」が起こる。そう。貴婦人の顔は人目に晒されるものではなかったというのが大前提としてある。

天つ風雲のかよひ路吹吹きとぢよ乙女の姿しばしとどめむ(僧正遍昭)
(吹き渡る風よ、雲の中の天と地を結ぶ道、天女の帰り道を閉じておくれ。乙女たちの姿を、今しばしこの地上に留めておこう)

百人一首にあるこの歌は、五節の舞姫たちの美しさを愛でるものだが、見られる側の乙女はどんな心境だったろうか。倫子と同じく嫌だという姫もいれば、茅子と肇子のように、舞台上から素敵な公達を見つけて盛り上がる姫もいたかもしれない。

『紫式部日記』には、五節の舞姫に付き従う五節の童女を目にして、見物される少女たちに胸痛める式部の心境が綴られている。彼女自身が舞姫になったという記録はないが、ドラマのように経験者であると想像して読むと、また違った趣がある。

『源氏物語』第21帖「少女」では舞姫担当となった光源氏が、腹心の家臣である惟光の娘を出している。このエピソードからの着想か、まひろが倫子の代理をする、そして舞台から「三郎」――道長と道兼を発見する。母の仇である道兼と「三郎」の関係を知ってしまうという物語の運びは巧みで劇的だ。そして、道長自身は三郎の正体をまひろに知られたことに気づかず、且つ兄・道兼とまひろの因縁も知らないという……来週への引きが抜群である。

「道兼さま」と口にする時に憎しみを込め「道長さまなの」と衝撃を伝える。吉高由里子の演技が光るラストシーンだった。

次週予告。『蜻蛉日記』の作者と、その愛息登場! 次回も仲良し公達の集まりと倫子のサロンが楽しそう。過去の全てを知ったらしい道長。そして、胸が張り裂けそうなまひろの告白……第5話が楽しみですね。

*******************
NHK大河ドラマ『光る君へ』
公式ホームページ

脚本:大石静
制作統括:内田ゆき、松園武大
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろう
出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、井浦新、吉田羊、ユースケ・サンタマリア、佐々木蔵之介、岸谷五朗、段田安則 他
プロデューサー:大越大士
音楽:冬野ユミ
語り:伊東敏恵アナウンサー

 『光る君へ』1話イメージイラスト「まひろと三郎の幼い出会い」/南天
 『光る君へ』2話イメージイラスト「まひろの仕事は代筆屋」/南天
 『光る君へ』3話イメージイラスト「見事な貴婦人、倫子はよく笑う」/南天
 『光る君へ』4話イメージイラスト「五節の舞姫を務めるまひろが見たその顔は!」/南天
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