スパイスマニアと東京・大久保の専門店へ。知っておくと役立つスパイスの選び方と使い方。
撮影・黒川ひろみ 文・小澤水奈
各国食材店の集まる東京・大久保でおすすめの店へ。
オリジナルのスパイスキットの販売も手がけるマムさん。そのスパイスで作った料理の複雑な香りと味わい深さが感動的だったので、近くの店で買ったスパイスで再挑戦したら、香りと味が全然違った……。これは一体どういうわけなのでしょうか。
「同じスパイスでも鮮度や加工方法で香りや味は大きく変わります。例えばチリを使う料理は、粉かフレークかという違いでも味が異なるんですよ」
そこで、今回はマムさんの買い出しに同行を依頼。行き先は、インドやネパールなどの南アジアと中国、韓国の食材店を一度に回れる大久保に決定。
「商品の質に絶対的に信頼のおけるインド食材店があります。それがアヌさんのお店、アンビカベジ&ヴィーガンショップ。また、日によって質にばらつきがある店でも今日は抜群に香りのいい品に出合えたなんていうこともあります。そういう店は値段が手頃だし、少量で買える点もいいですね」とマムさん。種類や産地の違うスパイスがバリエーション豊かに揃うのも専門店の魅力だ。
「シナモンに似た黒くて太い樹皮はカシア、ローリエに似た長い葉はベイリーフといい、見た目は似ていてもそれぞれ違う植物。どちらを使うかで料理の風味も変わります。スーパーマーケットには並んでいないスパイスやハーブに出合えるのも醍醐味です」
初~中級者向けに選んだスパイスでおすすめのレシピも教えてもらった。
カシアとシナモン、ベイリーフとローリエは、似て非なるもの。違いを知ってぜひ挑戦を。
インドやネパールの食材店で買うといいスパイスって何ですか?
南アジアの食材について、『アンビカ』店長アヌさんとの質疑応答をSNSでシェアしてきたマムさん。スパイス選びについて改めて聞きました。
マム 『アンビカ』は安定していいものが種類豊富に並んでるんですよ。アヌさんはじめ、お店の人の知識の幅も広くて、いろいろ教えてもらえるのもいいんですよね。
アヌ 少し高価になっても、質のいい食材をインド中から仕入れています。
マム スパイスは長く保存できるけれど、保存状態には影響されますから、店選びは大事。それに見た目だけで質を判断するのは難しいですよね。
アヌ ターメリックは黄色が濃いほうがいいのですが、ぬるま湯に溶かして判断するのが確実です。粉が下に沈んで湯が濁らなければ、色粉が混ざっていない証拠です。
マム なるほど! でも買わないと確認できない……。『アンビカ』ブランドのターメリックは、スパイスに慣れていない人も甘みやコクに驚くはず。香りだけでなくうまみもあるんですよね。
アヌ スパイスは香りがある限り使えます。ホールなら湿気と日光を避けて冷暗所で密封保存すれば、3、4年持つので、パウダーよりおすすめですが、ターメリックとチリは例外ですね。
マム チリパウダーは、自分では商品のようにふわっと軽く粉状にひけません。苦い、甘い、コクがあるなど、唐辛子の味は辛さと相まって様々だから、専門店でいくつかそろえたい。
アヌ ネパール産はうまみもあるけどすごく辛い。夜食べると眠れない。
マム お店の人に確認して選ぼう(笑)。
アヌ チリ入りミックススパイスもたくさんあります。インド風の料理だけではなく、チャーハンやローストチキンにも合わせやすいと思います。
マム ところで、ガラムマサラは店やブランドごとに香りが違いますよね。
アヌ “ガラム”は、熱いとか強い、“マサラ”は特定の混合スパイスという意味。辛くて、食べると自然に汗が出る料理のためのスパイスです。インドではお祭りの料理に欠かせません。商品によって使うスパイスの種類も様様で、風味が異なります。少し炒めて香りを出すか、湯に溶かして煮汁に香りを移してから使うといいですよ。
マム カルダモンならブラックとグリーンが揃うのも、専門店ならでは。ブラックは、マトンカレーなど個性のある食材に合いますね。
アヌ ブラックは、タンドールチキンや油でテンパリングするスターターとして使われます。さやから出して種だけ使う。グリーンは爽快な香りで、お茶やお菓子にも。軽く潰してからさやも種も使います。どちらか一種ならグリーンでしょうか。
マム 似ていて違うといえば、カシアとシナモン。でもどちらもシナモンスティックと書いてあることが多い。
アヌ 一般によく知られているセイロンシナモンはスリランカ産。インドなどアジアの広範囲で取れるのがカシアです。インド本国ではセイロンシナモンはほとんど売られていないんですよ。香りを比べれば違いがすぐにわかるし、黒くて太いほうがカシアです。
マム インドカレーにはカシアがおすすめ。でも爽やかで優しい香りのシナモンが何にでも使いやすいかな。チャイにもシナモンが合うように思います。
アヌ カシアは、よりスパイシー。
マム それとベイリーフ。これはカシアの葉ですよね。ローリエよりも葉が長くて葉脈が縦に流れているもの。香りもローリエはすっきりと甘みがあるのに対し、ベイリーフはスパイシーで深みがある。
アヌ 私たちがいつも使うのはベイリーフで、カレーや、ご飯を炊く時にも必要。ローリエは一般のスーパーにあるけれど、ベイリーフはエスニック食材店でしか買えないですね。
アンビカベジ&ヴィーガンショップ新大久保
東京都新宿区百人町1・11・29 新大久保ARSビル1F
TEL.03・5937・2480
営業時間:10時〜20時 無休
https://shop.ambikajapan.com/ja
マムさんの「知っておくと、 役立つ、スパイス情報!」
1.店頭で香りをかいでみよう。
薄手のビニール袋に小分けして販売しているような食材店は、一歩入ればスパイスの香りに包まれる。こういう店では小袋を手に取って香りを確かめよう。放つ芳香に驚くような品に出合えることも。
ただし、季節や仕入れ先が変われば、スパイスはいつも同じとは限らない。フェヌグリーク、マスタードシード、ホールのナツメグなど、油でテンパリングしたり、すりおろしたりすることで香りが立つものもある。また袋から香りがもれている品は、帰宅後、密閉し直すのを忘れずに。
2.スパイスを潰す、 ひく、おろす 道具はこれ。
石臼は、粒こしょうやカルダモンを粗く砕くのに最適。小さくても威力あり。なければ、厚手のビニール袋に入れて、麺棒などでたたく。電動のミルサーは、ほとんどのホールスパイスを粉にひける。シナモンスティックも大丈夫。ナツメグも、ホールなら香りが持続するし、おろし金で簡単におろせる。潰したて、ひきたて、おろしたては香りが別格だし、ローストすれば、香りがよみがえり、焙煎の香ばしさも加わる。何よりスパイスも植物。命が育って、人々が手をかけて加工したもの。大切に使いきるためにも、より日持ちするホールで買いたい。
3.珍しいミックススパイスで、 いつもの料理が変わる。
南アジアの食材店では、ガラムマサラのほかタンドールチキンやモモ、ビリヤニ用ミックスもそろい、ブレンドの妙が楽しめる。アヌさんのアドバイスでは、ミックススパイス同士をさらにブレンドしても香りの相乗効果が楽しめるそう。ベンガル地方の〈パンチフォロン〉は、ホールのスパイスミックス。次のページで使い方の一例を紹介しているので参考に。中国食材店では〈十三香(シーサンシャン)〉を試してほしい。八角、花椒、桂皮、陳皮、しょうが、クミンなどを合わせた、すっとする漢方薬のような複雑な香りで、肉、魚のから揚げによく合う。
マムさんのおすすめスパイスSHOP in 大久保
新大久保アジアンマーケット
南アジアの食材のほか、ベトナム、ミャンマー、タイなどのハーブ、調味料、生鮮、肉や魚の冷凍なども扱っている。
東京都新宿区百人町1・10・13 1F
TEL.03・6279・3485
営業時間:8時〜21時 無休
ジャンナット ハラルフード新大久保
通称「イスラム横丁」にある。店の横でスパイスを小分けしている。「少量買えるのも、手頃な値段もうれしい」とマムさん。
東京都新宿区百人町2・9・1 1F
TEL.03・3366・6680
営業時間:10時〜24時 無休
中国物産 海羽(ハイユー) 新大久保店
調味料、生鮮、冷凍食品、乾物など幅広い品ぞろえ。南アジア食材店にはないローリエはここで。〈香叶〉〈香葉〉などが中国名。
東京都新宿区百人町2・11・25 新戸山ビルB1
TEL.03・6908・8934
営業時間:10時〜21時 無休