『軽いノリノリのイルカ』著者、満島ひかりさん・又吉直樹さん。「回文は言葉を臆さず使えて、大胆になれる」「詩的な言葉から自然と物語が湧きました」
撮影・佐内征史 ヘア&メイク・星野加奈子、新宮利彦 スタイリング・Babimix
「回文は言葉を臆さず使えて、大胆になれる(満島さん)」「詩的な言葉から自然と物語が湧きました(又吉さん)」
上から読んでも下から読んでも同じ言葉になる「回文」。満島ひかりさんが生み出した回文から、又吉直樹さんが自由に発想してショートストーリーを書き上げる、2人の言葉遊びによる合作は、読み手を一気に異世界へと引き込む。
又吉直樹さん(以下、又吉) 初めて満島さんの回文を見せてもらったときに、こんなに長い文がつくれるんだと単純に驚きました。
満島ひかりさん(以下、満島) つくるときはメモには取らなくて。戯曲の翻訳集や祖母の手紙にあった「しませう」「消ゆる」「在り処」のような、いつ使うかわからないけれど好きな言葉。それをぼんやり頭の中でリズムでつないでいって反対にしたら、この言葉……あるある!とできあがっていく感じ。
又吉 回文というシステムに引っ張り出された言葉なので、満島さんが普段言わないようなことも含まれているのがおもしろい。
満島 回文は自分だけでつくったわけじゃない、って手放せるから大胆になれる。いつもならちょっとドキドキして選べないようなロマンティックな言葉も書けちゃう。
又吉 満島さんのつくる回文は、神話っぽい印象があります。
満島 教会のステンドグラスから降り注ぐ光を思い起こすような。回文はつくる人によって全然違うものになる。今まで出会った人や見た景色とか、グッときたもののストックが無意識に溢れていたり。
又吉 満島さんがつくると、詩のような流れで、強い言葉がところどころにあって。何回か読んでいると、こういう話かなと自然にイメージが湧くものが多かったです。
満島 毎回、回文をこうキャッチして広げるんだという、又吉さんの視点が新鮮でした。普段小説などで書いている、日常から生まれる文章ともまた違って。
又吉 「寝たきりくつ下 しっくり来たね。」の回は、今から書こうという時に祖父が亡くなったと連絡が来て。祖父との思い出を話に入れて、想像の中で会いに行く感じで書きました。回文によって掘り起こされた記憶もありますね。
満島 今回、回文、ショートストーリー、写真との予期せぬマッチングを楽しめるように、できた回文を又吉さんと同時に写真家にも送って、そこから想起する写真を提供してもらって載せています。
又吉 特に満島さんの川辺の写真は、物語とリンクしていましたね。
満島 私が川辺に立っていて、濡らした髪が青く写っている写真ですよね。その回は河童が女性を川に引きずり込む話で。写真と物語が呼応しすぎていて興奮しました。
又吉 写真もそうですし、言葉、デザイン、いろんな楽しみ方ができますね。本を読みたいけどタイミングがなかったという人は、入り口としてもいいんじゃないかな。
満島 パッと開いてそこだけ読んでも一日がおもしろくなる予感があるし、文学に触れた体感もある。そんなに深い意味はないけれど、どこかが急に自分の何かに刺さって、なんだったんだろう? まずいものを見ちゃったなという感覚になってもらえたらいいですね。
『クロワッサン』1124号より
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