新緑の候、国立博物館で心ととのえよう。奈良で空海に、京都で雪舟と若冲に会い、東京で極楽浄土を見る。
写真・文 クロワッサン編集部
日本最古、空海が携わった<国宝 両界曼荼羅>が230年ぶりの修理を終了。
奈良国立博物館では『空海展』が開催。生誕1250年記念の特別展となる。衆生救済を願った空海は804年に遣唐使のひとりとして中国・唐に渡り、そこで師の恵果(けいか)からわずか3ヶ月で密教の全てを受け継いだと言われる。本展では国宝約30件重要文化財約60件をもって、空海がもたらし、その後の日本の文化に大きな影響を与えた密教のルーツを辿る。
見どころのひとつは空海自身が制作に関わった現存最古の両界曼荼羅(胎蔵界および金剛界。平安時代、京都・神護寺。会期の前後期で展示替えあり)。紫の絹地に金泥・銀泥で仏や菩薩を描いたもので、最後の修理は江戸後期。このたび230年ぶり、6年間におよぶ修理を終え、公開されることとなった。他には「三筆」のひとりとしても名高い空海の自筆本、また唐から持ち帰ったとされる法具なども見逃せない。
光琳も若冲も憧れたみんなのお手本、「画聖」雪舟の誕生と伝説を辿る。
京都国立博物館では『雪舟伝説ー画聖(カリスマ)の誕生ー』が開催中(5月26日(日)まで)。「画聖」と仰がれる雪舟は室町時代の生まれ。幼い頃から禅僧として修行を積む傍ら画を学んだ。やがて遣明使節の一行に加わり同国でさらに研鑽。帰国後は国内で旅を重ねつつ骨太で力強い画風で特色ある作品を残した。
本展では雪舟の国宝6件全てを一堂に集めるほか、主に近世に活躍した画家たち、狩野探幽、円山応挙、伊藤若冲などの作品から雪舟の影響を色濃く受けているものを集めて「雪舟のフォロワー」としての血脈を解説。立体的で奥深い検証となっている。江戸幕府の御用絵師として活躍した狩野探幽の画風が雪舟の山水画を拠り所としていたことを、数多くの富士山図により解説。そして雪舟筆の鶴と若冲の描いた鶴、300年の時を超えてこんなに似ているとは。
「南無阿弥陀仏」と唱えさえすれば。浄土宗850年の歴史の名宝が一堂に。
東京国立博物館では「法然と極楽浄土」展が6月9日(日)まで開催中。今年浄土宗開宗850年を迎えるにあたっての記念展。鎌倉仏教の一大宗派・浄土宗の歴史を通覧する初の展覧会となっている。法然は「念仏により誰もが極楽往生できる」と解いた浄土宗開祖の高僧で、浄土宗の総本山は京都の知恩院。
大きな見どころの1つは国宝の阿弥陀二十五菩薩来迎図(鎌倉時代、京都・知恩院)(※展示は5/12まで)
2019年からの修理後の初公開となる。阿弥陀如来が諸菩薩とともに極楽往生を願う念仏者のもとに向かう場面を描いたもので、別名「早来迎(はやらいごう)」とも呼ばれる左上から右下に降りる勢いのある構図が印象的だ。また五百羅漢図(江戸時代、東京・増上寺)の鮮やかさにも目を見張る。
また、奈良・當間寺の本尊である国宝・綴織當間曼陀羅が奈良県外で初公開される。
圧巻なのは香川・法然寺の仏涅槃群像。釈迦の入滅を嘆く弟子の羅漢や八部衆、動物たちが嘆く様子を立像によって表現。2メートルの寝釈迦を取り囲む25体の群像に息を呑む。麒麟や獅子など霊獣も馳せ参じ、象は牙を振り上げて嘆く。コウモリやカタツムリも伏して悲しんでいる。しかし注目は猫だ。他の皆が釈迦に縋らんばかりに取り囲む中、猫だけは不機嫌そうに師に背中を向けている。この表情で哀しみに堪えているのか、猫よ、猫…。制作は17世紀の江戸時代。猫はすでにこのときに猫なのであった。どうぞ会場で確認を。
*会場の写真は全て許可のもとで撮影しています。
*展示替えにご注意ください。
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