美食ライターが通う、寛げてお土産も楽しみな京都の4つの和菓子店。
旨い店がごまんとある街だからこそ知りたい、美食ライターの齋藤優子さんが京都でその店に通う理由。
撮影・福森クニヒロ、青木和義 文・齋藤優子
“あんこでひと息つきたい時は老舗の茶寮へ”
正月の花びら餅に桜餅、6月晦日の水無月……。暮らしに溶け込むように和菓子がある京都には、茶席の菓子を扱う上菓子屋さんも、お饅頭や豆餅を作るおまん屋さんもたくさん。老舗も多く、江戸期から続く銘菓、名物は珍しくなく、土産を選ぶのに困るほど。
ただ、あんみつは東の文化ゆえか。甘味処は思いのほか少なく、あっても行列覚悟だったり、和カフェ風だったり。そこで、あんこでひと息つきたい時に選ぶのが、老舗和菓子店にある茶寮や茶店。長く続く銘菓があるのは、あんこの味が確かな証拠。設えも京都らしく、落ち着いている。土産とて店構えを知って買うと気持ちが違います。
[桂]御菓子司(おんかしつかさ) 中村軒
広くなった店内で頬張る麦代餅(むぎてもち)は格別。
いまもおくどさんであんこを炊くことで知られる1883(明治16)年創業のおまん屋さんの銘菓が麦代餅。
かつて野良仕事の間食として重宝されていた菓子で、粒あんの奥深い味もさることながら、それを包む餅が伸びよく、みずみずしい。
もち米と汲み上げた地下水のみでついていて、米の甘みが活きている。持ち帰りもできるが、梁や建具はそのままに3年前に改修、広くなった茶店で味わう作り立ては格別である。土産には、これも創業から続くかつら饅頭を。
「桂離宮の南側。少し離れた場所ですが、2階席もできて訪れやすくなりました。定番とともに、季節の餅菓子ももう1品頼んでしまいます」
(お土産)
御菓子司 中村軒
●京都市西京区桂浅原町61
TEL.075・381・2650
営業時間:8時30分~17時30分(茶店10時~17時LO) 水曜休
[今出川 ]茶(さ)ろん たわらや
茶道発祥の地でモダンな甘味と100年続く雲龍。
茶の湯ゆかりの情緒ある一角に、『俵屋吉富』が初めて構えた茶房だ。
1755年から続く老舗だが、甘味はモダン。いろいろな食感が楽しめるようにと、あえて寒天を切らずに盛り付けたあんみつや、善哉の汁を温かい抹茶に替えて、白玉と粒あんを忍ばせた抹茶善哉など、趣向が面白く、味もさらりとした仕立て。
銘菓・雲龍は、店内でも土産でも。相国寺の雲龍図に感銘を受けた7代目が、小倉あんと村雨あんで雲に乗る龍を表した菓子で、今年100周年を迎えたそう。
「茶道の家元があり、茶道具店が立ち並ぶ界隈の景色に溶け込むようにひっそりと暖簾がかかる。そこで味わう甘味がデザートっぽく新鮮」
(お土産)
茶ろん たわらや
●京都市上京区寺之内通小川西入ル宝鏡院東町592
TEL.075・411・0114
営業時間:10時~16時 火曜休
[四条烏丸]大極殿本舗(だいごくでんほんぽ) 高倉本店
名物・琥珀流しを買い物帰りにゆっくりと。
1885(明治18)年にカステラを看板菓子として創業。
その地に立つ本店の奥に5年前、誕生した甘味処だ。春庭良(カステラ)や、その技法や生地を使った銘菓・大極殿、花背とともに知られるのが、甘味の琥珀流し。
角切り寒天の食感が苦手という女将の芝田泰代さんが考案したもので、固まるぎりぎりの柔らかさに仕上げた寒天の喉ごしのよさと、毎月替わる蜜の味、それが織りなす美しさが身上だ。大粒の丹波大納言小豆をふっくら炊いた善哉も隠れた名品。
「本店は席間がゆったり。街中にありながら、六角店のように行列しないので、買い物帰りの憩いの場。本店限定の琥珀流しもあります」
(お土産)
大極殿本舗 高倉本店
●京都市中京区高倉通四条上ル帯屋町590
TEL.075・221・3533
営業時間:喫茶10時~17時 水曜休
[今出川]虎屋菓寮(とらやかりょう) 京都一条店
庭を眺め、古を思いながら上品な甘味を。
京都御所の西側、1628(寛永5)年に土地を買い足した証文が残るという、その場所に菓寮はある。
季節の生菓子やお汁粉は、ほかの『虎屋菓寮』でも楽しめるが、江戸時代から残る蔵がある庭を眺めつつ口にすると、味わいもひとしお。
希少な白小豆を使った和三盆糖仕立ての汁粉は、甘く、とろりとした汁の中に風味のいい白小豆がたっぷり。近くにある『本田味噌本店』の白味噌を使った小形羊羹は、京都だけのお楽しみ。
「〝ここから菓子の御用を達していたのだなぁ〞と、甘味を口にしながら、ふと思います。京都や菓子に関する本が自由に読めるのもいい」
(お土産)
虎屋菓寮 京都一条店
●京都市上京区一条通烏丸西入ル広橋殿町400
TEL.075・441・3113
営業時間:10時~17時30分LO 毎月最終月曜休(祝日の場合は営業)
『クロワッサン』1113号より