くらし

林真理子さん、佐々木蔵之介さん対談「京都はあらゆるテーマで旅ができる場所

何度訪れても、また来たくなる京都。
大人になればなるほどその良さがしみじみと感じられて。
美味しい料理や艶やかな神社仏閣、職人技の生きた道具の数々、そのすべてに素敵な物語が。
京都通の二人の話に、まず耳を傾けてみると……。
  • 撮影・青木和義 イラストレーション・村田善子 スタイリング・勝見宜人(Koa Hole inc/佐々木さん) ヘア&メイク・西岡達也(Leinwand/佐々木さん)、山本浩未(林さん) 文・板倉みきこ

あらゆるテーマで旅ができる場所。

左・佐々木蔵之介さん 右・林 真理子さん

魅力的な観光都市〟として、常に国内外から注目を集める街・京都。旅先としてはもちろん、小説の取材先としても足繁く通ってきた作家の林真理子さんと、京都に生まれ育った俳優の佐々木蔵之介さん。今回はそれぞれの視点から、京都を旅する楽しさ、色褪せぬ街の魅力を語り合う。

林真理子さん(以下、林) 京都には、それこそ何十年も通っていますが、汲めども汲めども魅力が湧いてくる不思議な場所。今でも、新幹線が京都駅に近づき、車窓から五重塔などが見えるともう、ワクワクしてしまいます。

佐々木蔵之介さん(以下、佐々木) 僕は高校まで京都に住んでいましたが、当時見ていたのは学校と実家の周り程度でした。例えば鴨川で遊んで、御所で蝉捕りしたり野球しに行ったり……子どもの狭い世界での目線です。大学からは神戸へ、大阪でも働きましたが、役者になって30歳で東京に出て、やっと少し京都を俯瞰で見られるようになった気がします。

 でも、佐々木さんは京都の老舗酒屋の息子さん。もちろんいいお店もいっぱいご存じなのでしょうね。

佐々木 いやいやいや。うちは創業130年程度で、京都でいったらまだまだ“ハナタレ”です。僕もそんな柄ではありません。でも、俳優仲間が京都に撮影に来るときは「いい店教えて」と聞かれますし、京都出身者として「わからんなあ」なんて、そろそろ言っている場合じゃないな、と。

 佐々木さんは、観光大使にも任命されていらっしゃいますしね。

佐々木 はい(笑)。それで以前、映画『超高速! 参勤交代』の撮影で京都に滞在した2カ月ほどの間に、ひたすらリサーチに励んだんですよ。

 なんと、佐々木さんがご自分の足で探したってことですか?

佐々木 ええ。昼も夜も毎日違うお店に行き、とにかく食べ歩きました。美味しいお店を見つけてもリピートせずに次へ、というルールを決めたので、流石にちょっと大変でしたが(笑)。そのおかげで、おすすめできるお店のリストはある程度、できましたね。

 芸妓さんがやっていらっしゃる、お茶屋バーなんかでお馴染みは?

佐々木 僕だけで行くことはないですし、深い知識はないのですが、「こういうところに行きたい」と人からリクエストを受けたら、弟に聞いています。

 弟さんは家業を継いでいらっしゃるから、街での粋な遊び方はよくご存じなのでは。京都の若だんさんたちにとっては、お茶屋とのおつきあいなど、嗜みとしても、よそからのお客さまをもてなすためにも、大切な知識なのでしょうね。

「雅」も「魔界」も。何でもござれの街。

 私は1980年代に、京都を舞台に展開する「京都まで」という恋愛短編小説を書きました。東京で働く30代の女性編集者が“京男”と恋に落ちる。この街だからこそ成り立つ世界や、生まれるドラマがあると思います。

佐々木 京都を描いた物語の舞台を見て回るのもいいですね。今回、大河ドラマの『光る君へ』で藤原宣孝役をやらせていただくにあたり、紫式部の邸宅跡の廬山寺(ろざんじ)とか、お墓にも初めて足を運んでみたんです。

 式部の夫としての弔問ですね。

佐々木 ええ、そうです(笑)。藤原道長の邸宅趾も訪れました。「あ〜道長さん、どうもどうも」という感じで。

 『源氏物語』は壮大な物語ですけど、実際に描かれた場所を訪れると、その空気感なんかが伝わって、よりリアルに味わうことができますよね。

佐々木 はい。平安時代当時の建物などはもうなくても、空気感は土地にしっかり残っている気がします。

 私も、源氏物語の「宇治十帖」を現代語訳で書いたときは、宇治を訪れました。宇治と京都はどんな距離感なんだろうと肌で感じに。「ああ、ここから都は遠いのね」って思い耽ると、主人公の心の距離が見えたりします。

佐々木 そうそう。今だったらあっという間の距離ですけど、平安時代はどれだけ寂しく感じられただろうと思い馳せられる。その場所に行くことで、物語の中の世界を体感できますね。

 下京区の風俗博物館に行ったこともあります。源氏物語の世界を再現した場所で、十二単も実際に着せてもらいました。「脱がせるときはどうするんだろう」って、想像をかき立てられたり……。博物館の方は「渡辺淳一先生も、全く同じことをおっしゃっていました」って(笑)。

佐々木 作家さんならではですね。平安時代は雅なイメージが強いですが、今回の大河ドラマは脚本の大石静先生が「セックス&バイオレンス」がテーマと言われていますし、はんなり、だけでない部分も多々あります。京都の街も同じです。上品で高貴なだけでなく、“魔物”的な世界も共存している。下町っぽいところも見どころですね。

テーマを決めると、旅は何倍も楽しくなる。

 京都はとにかく美味しいものが多くて、食べ歩きだけでも楽しめます。でも、日本料理の名店など予約が困難な店は、京都に通じた人にお願いするのがルールとか、一見さんお断りのところも……。佐々木さんは、ジビエの名店『比良山荘』に熊鍋を食べにいらしたりしますか?

佐々木 いやいやないですよ。林さんはほんまよく知ってはりますね。

 あ! 京都の人のその感じ(笑)。もちろん、うれしくていろいろなお店に行くのは観光客なんですが、京都の人は「東京の人のほうが、京都のことを知ってはりますよ」とかおっしゃるんです。「いいとこ行ってはりますね」って。

佐々木 ははははは。他意はないと思いますけど、もちろん、京都人も一見さんお断りかどうかは気にしますよ。新しい店に行くなら、「ここは大丈夫なのかな」「弟に聞いてみようかな」っていう段取りはいろいろと考えます。

 もちろん、その敷居の高さとか、段取りが必要な面倒くささも含めて京都が持つ独特の魅力なのですが。

佐々木 京都ならではの食はほかにもありますよ。たとえば京都は日本一牛肉を食べる街って言われてまして、牛肉の店も多いんですよ。すき焼きなら寺町京極には『三嶋亭』のような名店がありますし、お手頃に食べさせてくれる『キムラ』という店もいいんです。昔ながらの風情が残る、三条会商店街の飲み屋で一杯やるのも好きですね〜。

 私は京都の喫茶店も好きです。街中の喫茶店で一人で本を読むんですよ。最近はそういったさりげない場所で気負わず楽しむ観光客の方も増えました。

佐々木 自分だけの喫茶店を持っている人が多いですね。街中を歩いて探してみると、まだまだ穴場の喫茶店が見つかるかもしれませんよ。僕も京都に戻ると、よく歩くようにしています。「二条城を散歩しようか」とか、「どっちみち四条のほうに行くんやったら、歩いて御所を通って、鴨川を南に行こうか」とか、そんな感じで。街が小さいし、道が碁盤の目なので、迷っても絶対最後は目的地に行ける。むしろ迷ったほうが楽しいから、通っていないところを通ってみるようにしています。

 確かに住宅街にとっても素敵なお寺があったりしますね。ほかにはお麩の専門店や、方位にまつわるお店など、いかにも京都らしい場所に行くのも楽しい。着物好きなら『祇園ない藤』や、『かづら清老舗』など小物のお店でお買い物するのも気分が上がります。

佐々木 最近、滋賀に宿泊しながら京都観光をする人が増えているという話も聞きますね。滋賀の雰囲気もとてもいいですし、京都との距離も近い。京都と滋賀を行き来するのは、旅としても新鮮で魅力的じゃないでしょうか。

 そうですね。滋賀だけでなく、丹波に足を延ばしてもいいし。街と里山の魅力、どちらも存分に味わえます。

佐々木 伏見の酒蔵をゆったりめぐるのもいいと思いますよ。

林 京都をより深く楽しむためには、旅のテーマを決めるのが大切ですね。

佐々木 たしかにいろんな視点でテーマが浮かびそうです。

 それぞれに深掘りをして、物語を感じる旅ができるのも京都ならでは。

佐々木 ぜひ体験してほしいですね。

「ここにしかない、を楽しみたい」林さん 「いろんな顔の京都を見てほしいです」佐々木さん
林 真理子

林 真理子 さん (はやし・まりこ)

作家

山梨県出身。著書に『源氏物語』を物語化した『六条御息所 源氏がたり』『STORY OF UJI』がある。雑誌『anan』でのエッセイは連載39年目。

佐々木蔵之介

佐々木蔵之介 さん (ささき・くらのすけ)

俳優

京都府出身。平安時代が舞台の大河ドラマ『光る君へ』で主人公の夫役を演じる。主演の『映画 マイホームヒーロー』が3月8日より公開。

佐々木さん・ジャケット8万8000円、シャツ4万2900円、パンツ5万9400円(以上m’s braque/sekond showroom TEL.03・3794・9822) ほかスタイリスト私物。

『クロワッサン』1113号より

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