くらし

牧野富太郎博士の功績を伝える広大な植物園へ。高知・花と草木をめぐる旅。

高知には植物の名所が多いのをご存じですか?
一度は訪れてみたい憧れの植物園を、フラワースタイリストの平井かずみさんと訪れました。
  • 撮影・徳永 彩(KiKi inc.) 文・黒澤 彩

高知県立牧野植物園

季節ごとに訪れたくなる、全国でも指折りの広大な植物園。

植物園の外周に沿って植えられているアセビの花が満開に。「近づくとす っごくいい香り!」と、立ち止まって香りを堪能する平井さん。

「花と草木をめぐる旅なら、ぜひ高知に行きましょう!」

平井かずみさんのこんなひと言をきっかけに、まず訪れたのは、植物分類学者・牧野富太郎博士の功績を今に伝える「高知県立牧野植物園」。

およそ8ヘクタールもの広さの園地は高知市を見下ろす五台山(ごだいさん)の山頂近くにあり、山の起伏を生かしながら自然と調和するように造園されている。四季折々に、3000種類以上の植物が目を楽しませてくれる。初めて来園した人は想像以上のスケールに驚くはず。

山の起伏を生かした園地を歩くとかなりいい運動に。遠くに見えるのは温室。

「こんなふうに自然と一体になっている植物園はめずらしいですよね。いつ来ても気持ちのいい場所。それでいて、同じ景色だったことは一度もなく、その時々の季節を感じられます」

取材した3月は、花木や早春の草花が見ごろを迎えていた。右から、シキミ、ニシキマンサク、カンザクラ‘寒桜‘、ラッパスイセン、タマザキサクラソウ。その時々の見ごろの花情報はホームページで更新されているほか、本館の窓口近くにも掲出されている。園内でうっかり見過ごしてしまいそうな植物にも「咲いてい ます」と書かれたプレートが付いて いるので安心。早足で素通りしないように、目を凝らしながらゆっくり歩こう。

見どころがたくさんある園内。 咲いている花以外にも注目を。

窓口でもらえるパンフレットには園内マップが載っていて便利。

到着したら、先へ先へとはやる気持ちを抑えて、まずは正門から本館入り口までのアプローチをじっくり観賞しよう。そこは「土佐の植物生態園」。通路を挟んで両側に、高知県内の異なる標高の植生を再現した、実はこの植物園のハイライトともいえるエリアだ。

「植物園のスタッフの方によると、標高が違うエリアの落ち葉や種子が混ざらないように気をつけたり、枝の切り口が見えないように剪定したりと、管理がとても大変なのだそうです。努力と工夫が詰まっているんですね」

ここで牧野博士が特に愛したというバイカオウレンの花を初めて見ることができて、平井さんも感激ひとしお。

“小さくて愛らしいバイカオウレンに初めて出合えました。”

せっかく高知県立牧野植物園に来たならば、牧野富太郎博士にまつわる展示もぜひ見ておきたい。

 

牧野博士の蔵書などを保管している牧野文庫(研究目的以外は非公開)、図書室、映像ホールなどが入っている本館。

「牧野先生は、連続テレビ小説『らんまん』の主人公のモデルになっている“時の人”ですよね。どんな人生を歩んだのか知りたくなりました」

上・満開だったジンチョウゲ。離れたところまで香りが甘く漂ってくる。下・展示館の中庭ではヒメコブシの蕾がほころび始めていた。

展示館の常設展示室では、その生涯を辿りつつ、生前の写真や愛用品(複製)、博士が描いた植物図などを見られる。晩年の自宅の仕事場を再現したコーナーもあり、本当に本人がそこにいるのかとドキッとしてしまうほどの完成度。

展示館の中庭には牧野博士ゆかりの植物が集められている。

何度もここを訪れ、著書を愛読しつつも、牧野博士その人自身については詳しく知らなかったという平井さん。

“牧野富太郎さんの人柄に触れて、親しみを感じました。”

右上・博士が描いた植物図。1ミリの中に5本の線が描かれているほど細密。右下・愛用の品々。左上・植物標本は新聞紙に挟んで保存されていた。左下・植物園広報の橋本渉さんと。

「植物愛の深さやチャーミングな人柄にあらためて魅了されました。絵の才能もすばらしい。植物図は正確な上に美しくて、独学というのが驚きです」

園内の「こんこん山広場」からの眺望。眼下に高知市内を見渡せる。

“木々の緑に包まれて深呼吸すると心まで洗われます。”

鳥のさえずりも聞こえて南国気分。はるか頭上で葉を広げる木々に圧倒される。

園内にお遍路道も!? 多くの人に開かれた植物園。

園内のレストランで休憩したあとは、温室や50周年記念庭園のある南園を散策。もとは四国八十八ヵ所霊場のひとつである竹林寺の境内だったエリアで、お遍路道も通っている。

「古い石段を上ってみたら、いい運動になりました(笑)。起伏があるおかげで、同じ庭園でも見る位置によって風景がずいぶん変わりますね」

園地で牧野博士の銅像を発見!  博士が手にしているのはキノコ。

朝から夕方まで、一日たっぷり滞在しても足りないほど。また来たいと思うのは皆同じで、地元はもちろん遠方からもリピーターが絶えないという。「あっちに桃の花が咲いてますよ」「この木は樹齢が古くてね」などと教えてくれる常連さんの多いこと!

「私も次にいつ来られるか楽しみです。これから木々が芽吹きはじめて、新緑の季節もいいですよね。牧野先生のことも勉強できたし、ますますこの植物園が好きになりました」

温室では熱帯の花、果樹、水辺の植物などを通年楽しめる。右から、ラン科植物の一種、ガッショウバナナの花、クレロデンドルム・クアドリロク ラレ。

\牧野植物園で買ったおみやげ/

【上】Makinoオリジナルブレンドティー。「ミソハギ」(左)、「スエコザサ」(右)各324円。【中】高知市内の和菓子店、福留菊水堂の「百合羊羹」(左)と「山桃羊羹」(右)各650円。【下】ポストカードの種類も豊富。「コウシンソウ」(左)、「コオロギラン」(右)各220円。

●高知県立牧野植物園

高知市五台山4200・6 
営業時間:9時~17時(最終入園16時30分) 
休園:年末年始ほか 
入園料一般730円(高校生以下無料) 
TEL.088・882・2601

平井かずみ

平井かずみ さん (ひらい・かずみ)

フラワースタイリスト

花の教室、ワークショップなどを通じて、自然の景色をうつす花生けと、花のある暮らしの楽しみを伝える。本誌、目次ページでの連載「花に、託して。」は7年目に。

『クロワッサン』1092号より

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