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森岡書店代表の森岡督行さんに聞く、「私の好きな東京」。

新陳代謝が、休むことなく繰り返される首都・東京。
話題には事欠かないけれど、最先端ばかりが東京じゃない。
その楽しみ方は人の数だけ。
より深く濃く味わうためにこの地に根を張る森岡督行さんに「私の好きな東京」を聞いた。

文・長谷川未緒

東京には自然がないと思われがちですが、コンクリートは石灰石の化学変化と聞くし、ガラスは珪石、鉄は鉄鉱石、アスファルトは化石燃料系と、天然由来です。

首都高はすごく錆びているところがあり、地下鉄の水がこれでもかと湧き出ていて、自然に戻ろうとしているようにも見え、そう考えると東京は巨大な岩場のようです。

完全な私の思い込みですが、そういう岩場みたいなところで生活したり仕事したりしている。最近東京をそう見ています。

そんな中にあって東京に暮らすおもしろさはいろいろありますが、世界の都市と比較して特にすごいのは、食だと思います。

たとえば、フレンチ、イタリアン、中華、焼き鳥、そば、ラーメン、おでん、カレー、オムライス、肉、サンドウィッチ、ケーキ、パフェ、珈琲……もちろん和食。

東京の食の豊かさを換言すると、食で季節を感じられるということ。そして東京には、遊ぶように仕事をしている人々が大勢いますが、そのような人々が上記のような食の現場で「打ち合わせ」をしている。そこにはイメージの広がりがあり、それが「東京」に暮らすおもしろさのひとつに繫がっていると思います。

コロナ禍で大打撃を受けた街や店舗、施設は多いと思います。でもこの間、考え方を変えて、力を温存させた人々がいるのも確かなこと。

今後、そこから新しい何かが生まれてきそうな気配をあちらこちらで感じます。蓄えたエネルギーを爆発させる時期にさしかかってきているように思います。

【私の好きなTokyo】

●銀座界隈

「銀座はショートケーキの宝庫だと思います。日本のショートケーキ発祥が不二家なら2022年で100周年。欧米のお菓子に憧れて輸入したけれど、独自の進化を遂げたところが日本らしい。資生堂パーラー、銀座千疋屋、銀座ウエスト、和光……。ショートケーキを銀座で味わえば100年の時間を感じられます」(森岡さん)

●神保町界隈

「神保町のように古書店や書店がたくさん軒を連ねる街は、世界中そうはなく、それだけで貴重。気になった1冊を『ラドリオ』『ミロンガ』といった喫茶店で読むのはまさに東京の豊かさでしょう。山の上ホテルに泊まったらぜひバーで1杯。少し足を延ばして、やぶそば、近江屋洋菓子店、ニコライ堂も訪ねてください」

●日本橋界隈

「百貨店の中にある三越劇場で観劇し、特別食堂 日本橋で会食する。千疋屋総本店で季節のパフェをいただいた後、室町砂場でざるそばを食う。この組み合わせが意外と合うんです。日本橋髙島屋、野村證券、三井本館、日本銀行、近三ビルヂング、常盤小学校などの建築ツアーを楽しめるのも日本橋の醍醐味です」

  • 森岡督行

    森岡督行 さん (もりおか・よしゆき)

    森岡書店代表

    一冊の本を売る書店をコンセプトにした『森岡書店 銀座店』で注目を集めている。著書に『荒野の古本屋』『800日間銀座一周』など。

『クロワッサン』1079号より

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