60代で息子と共に建てた二世帯住宅へ。実現した感性を持ち寄る自由な家。
撮影・深水敬介 文・上條桂子
妻が愛する「赤」が要所に。
「赤が好きなんです」と言うのは、紀子さん。
白を基調としたリビングでは、ソファやラグ、テーブルクロス、観葉植物など、ふと目に留まるポイントに、赤が配される。
それはまるで空間に絵の具をポンと置いたようで、シンプルになりがちな場所にリズムをもたらしている。赤いソファは以前コンクリート造りの住宅に住んでいた時に、よく映えるという理由で購入し、30年以上使い続けている。
夫と妻の作品が空間で調和する。
章宏さんは2003年から陶芸を始め、紀子さんはデザインの仕事が一段落した後、東京でセツ・モードセミナーや版画講座に通い、仕事以外の創作活動をスタートした。
室内には、二人がそれぞれ手がけた作品が気持ちよく並んでいる。
ギャラリーを経営していた紀子さんが、平面と立体が心地よく入り交じる抜群の空間感覚で、これらを配置。これからも作品は増え続け、家を彩る予定だ。
気に入ったものは繕って長く愛用。
何度かの引っ越しを経て、だんだんとものが整理され、東京に住まいを移す時には、かなりたくさんのものを手放したという夫妻。
現在は、残されたものに手をかけ、修理をし、大切に使い続けている。
「気に入ったものはなかなか手放せなくて、椅子も昨年、自分で張り替えたんです。革を買いに行って用途を伝えたら、店員さんが驚いていました(笑)。でも、やってみると楽しくて」(紀子さん)
色鮮やかな植物もインテリアの一部。
玄関や庭の植栽、室内には生き生きと生命力溢れるグリーンが大小さまざまに配置され、インテリアを彩っている。南側に大きくとられた窓からの光は、植物にとってもうれしい環境だ。
「モッコウバラの季節が終わるとブラシの木が花を咲かせて、窓からは季節ごとに違う風景が楽しめます。室内はあたたかく、放っておいても植物がどんどん育ってしまうんですよ」(紀子さん)
創作物が生み出されるアトリエ。
地下の寝室の横には二人のアトリエが。
両サイドに隙間なく本棚が据え付けられ、手前に紀子さん、奥に章宏さんのデスクがある。
中間には大きな作業台や画材が置かれ、章宏さんは80代だが、まだまだ現役で連載の仕事をこなす。
「資料などから、毎日ノートに絵やコラージュを描きためています。仕事の時はノートをパラパラ見ているとアイデアが湧いてくるんです」(章宏さん)
旅先で出合い、持ち帰ってきた思い出の品々。
夫妻の共通の趣味は海外旅行。1ドル=360円の時代から足繁くヨーロッパに通い、現地の建物や芸術、町並みやデザインから刺激を受け、仕事に活かしてきた。
「インスピレーションは常に旅から。ヨーロッパはやはり光が違って、色使いも参考になるものがありました。旅から帰ると新鮮な感覚で創作ができます」(章宏さん)
旅先から持ち帰ってきた品々は、色褪せずに今も家を彩っている。
『クロワッサン』1046号より