【歌人・木下龍也の短歌組手】おうちで生まれたあるある短歌。
〈読者の短歌〉
粉もんの焦げた匂いが生ぬるい風に運ばれ祭りの合図
(きさらぎ なる/女性/テーマ「匂い」)
〈木下さんのコメント〉
たしかにお祭りは目よりも先に鼻が感知する。
〈読者の短歌〉
借りた邦画の音量の振り幅にリモコンが手放せないでいる
(平井まどか/女性/テーマ「音」)
〈木下さんのコメント〉
ひとりで「わかるわ〜」って言ってしまいました。日々の生活に溶け込んでいたり、埋もれてしまっているあるあるを見事に短歌として捉えていますね。これ短歌にしようと思ったことすらなかったなあ。
〈読者の短歌〉
眠るとき脚を数字の4にするきみとわたしで44だ
『「脚を4のかたちにして寝るとなんか楽で、つい4になっちゃうんだよねー」と私。「え!一緒!うちも4で寝てる」と友人。4の脚で眠る人は多いのでしょうか?』
(今野日日/女性/自由詠)
〈木下さんのコメント〉
あれ?今回、あるある回ですか?これもひとりで「わかるわ〜」って言ってしまいました。「寝るとき脚を4にする なぜ」でググったら「腰が悪い」とか「ナルシスト」とか出てきたのでそっとパソコンを閉じました。
〈読者の短歌〉
スマホ上に踊る嵐が広告に変わったとたん指紋がすごい
(春野さき子/女性/自由詠)
〈木下さんのコメント〉
「すごい」という言葉のすごさを感じる短歌。動画の再生中に広告スキップのボタンを連打するというあるあるを短歌にする場合、「指紋がすごい」という大雑把な描写こそ、ここに置かれるべきちょうどいい塩梅の言葉であるような気がします。
きらきらと踊る嵐が広告に変わったとたん指紋がすごい
としても「スマホ上に」ということは伝わるはずなので、この部分はカットして別の初句(57577の最初の5)を検討してみるのもいいかもしれません。