【歌人・木下龍也の短歌組手】ふとした心のざわめきをなんと表す?
〈読者の短歌〉
キャラメルを少し焦がした味がしそう ベランダにある蝉のぬけがら
(うみべの/女性/テーマ「夏」)
〈木下さんのコメント〉
色から想像する味はそんな気がしますよね。ですが「蝉のぬけがら」にはほぼ味がありません。え?あ、はい、小学生のころに隠れてすこし。
〈読者の短歌〉
チンパンジーにパンをあげたらチンパンパンジーになったよ。 パンを返して
(飯田和馬/男性/テーマ「パン」)
〈木下さんのコメント〉
「チンパンパンジー」がパンパンを返してしまってチンジーになる想像をされるところまで織り込み済みなのでしょうね。ところでパンパンのどちらがあなたのパンですか?
〈読者の短歌〉
口腔を切り裂く堅い肌 互い違いに覗くベーコンの眼
(こくもく/男性/テーマ「パン」)
〈木下さんのコメント〉
ベーコンエピ、大好きだったのに、もう妖怪にしか見えない。結句の「眼」を「顔」として7音にするといいかもしれません。
〈読者の短歌〉
こんな映画見なきゃよかった、と泣いてからエレベーターでかたちにもどる
(展翅零/女性/テーマ「映画」)
〈木下さんのコメント〉
元の形に戻る。元の、を抜いて「かたちにもどる」と書かれるだけで、ちょっとわからなくなる。わかるからちょっとわからないに移動させられる。そのわずかな距離に詩は生まれるのだろう。
〈読者の短歌〉
蒸しパンをつぶして食べる君が好き 愛しいものに容赦がなくて
(すずはら/女性/テーマ「映画」)
〈木下さんのコメント〉
僕もね、ふわっふわのおにぎりをぎゅうぎゅう握りなおして密度の高いぎちぎちのおいしさを味わいたい派です。
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