小さな物語は咀嚼され、大胆に新たに構築されている。それでも「説話」が本来持っている妙味はそのまま、時空を超えた贅沢な物語空間を味わえるのだ。そして、忘れてはならないのが、ここに収められた8編すべてに、姿は違えど立ち現れてくる、鬼の姿。
「頭に角を生やして虎のパンツをはいている鬼が出てくるのは、ずいぶん後になってから。もともとは霊魂やまつろわぬ民を指す言葉だったり、鬼が表すものはすごく広い。たとえば、一寸法師は都を姫君と歩いていて、いきなり鬼に襲われる。小さい頃は『都にいきなり鬼!?』と思ったけど、実はそれは強盗や悪者の類いと考えたほうが自然な気がするんですよ。何人も人を殺すようなやつは鬼呼ばわりされていたというふうに」
言葉のとおり、物語に登場する鬼の姿は、本当に変幻自在だ。姿が異形なものあり、残酷さをまき散らすものあり、欲望や哀しみに囚われたものあり……。変わらないのは、千年も昔より人々の心の中にあった、そして今もあり続ける“気持ち”。それを改めて今の時代というフィルターを通して読み解くおもしろさ。朱川さん自身も「とても楽しい仕事でした。苦労して古語辞典を引いた甲斐がありました」と語る、たまらない魅力を湛えた一冊である。