絶対別れた方がいいのに、切るに切れない男と女。まわりにいくら止められようと、磁石のように引き合ってしまう、くされ縁というやつです。そんな男女を取り巻く人間模様が、“橋”にはじまり“橋”に終わる、美しい円環構造で見事に描き出されます。
夫を待つ轟夕起子、愛らしさ全開の芦川いづみ、さまざまな個性が際立つ中、やはり本作は女として生きるスキルのめっぽう高い、新珠三千代がぶっちぎりでいい! 品がよくて和服の似合う、しとやかな日本女性といったパブリックイメージに反し、蓮っ葉でしたたかで根性のすわったこの蔦枝役こそ、文句なしのベストアクトです。
とりわけ、冒頭から着たきり雀の夏物の縞のきもの姿は、きもの好きの間で語り草になっています。ゆるいのに体と一体化したような、究極の着付け……。わざとらしく男にしなだれかかることはあっても、艶めかしい絡みは一切ない、なのにむせるようなエロティックな色気が終始充満しています。
埋め立てられた洲崎川や船着き場など、もうこの映画でしか見ることのできない、風情ある景色も多数登場。ロケ地めぐりする人も後をたたない、ある時代の東京の記憶を完全に閉じ込めた大傑作です。