くらし

お遍路とiPad。│束芋「絵に描いた牡丹餅に触りたい」

私の父はテレビから流れるワイドショーなどの情報によって、若者や外国人に対しての偏見を持っている。そんな父が一人、小豆島のお遍路に行ってきた。八十八箇所巡りができる小豆島は、四国4県を跨ぐお遍路のミニチュア版というのとは違い、独自のお遍路と言える場所だという。

父はもう10年以上前から「死ぬまでにお遍路へ」と繰り返し言っており、けれども色々理由を付けて実行せず、もう70も半ばに差し掛かろうとしている。若い頃に腰を悪くしているので、筋肉が衰えるにつれ、腰の具合はどんどん悪くなり、最近はお爺ちゃんらしく、腰を曲げて歩いている。そんな事なので、本人も家族も、八十八箇所巡りは夢のまま終わるのだろうと思っていた。けれど、ある人のキツイ言葉に後押しされ、旅立つことに。家族みんな喜ぶと共に、出発の日が近づくにつれ不安も募っていく。体育会系の血が濃い父は、やるとなったら無茶もする。具合の悪い足腰を酷使して、帰宅と共に入院、なんてことになるんじゃないか。そして、スマートフォンもiPadも使いこなせない父は、山の中で迷って帰って来られないなんて事も想像した。

使えないだろうと思いつつも、iPadを手渡し、それを持って父は旅にでた。

父が元気に帰って来てくれた今だから言えるのだけれど、行ってくれて良かった。帰宅した父が手に入れたのは、腰から太もも周りの筋肉と、iPadを使いこなす技。慣れないiPadで毎日家族への報告をしてくれる姿には、遠く離れた場所からでも、大きな声で応援したくなる。そして手放したのが、マスメディアによって植えつけられた偏見。現地で出会った素敵な人たちのお陰で、73歳になっても変わることができる父の姿を見せてもらい、父の前に広がる可能性に嬉しくなった。

束芋(たばいも)●現代美術家。近況等は、https://www.facebook.com/imostudio.imo/にて。

『クロワッサン』1020号より

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