自然の中で、自然そのものをもろに受けながら生活している人たちの作品は必ず美しい――邊見泰子(植物研究家)
文・澁川祐子
自然の中で、自然そのものをもろに受けながら生活している人たちの作品は必ず美しい――邊見泰子(植物研究家)
料理教室に通い続け、料理の雑誌記事や翻訳を手がけるようになった人や、主婦として野草料理にハマり、その料理法をまとめた本を出版することになった人。「10年の歳月は、あなたにこんな成果を約束します」と題した企画では、好きなことを長年続けるうちに、それが世間の評価や新しい仕事につながったという人を紹介しています。
そのなかで素敵だと思ったのは、植物研究家として写真やエッセイを発表し、現在はボタニカル・アーティストとしても活躍する邊見泰子さんの言葉。邊見さんは入社した小さな出版社で、それまでまったく知らなかった高山植物などの出版企画に携わることに。専門家について野山を歩くうち、人と自然とのかかわりに魅了されていったといいます。
里山に通い、そこで生きる人々に出会い、その手仕事にふれた邊見さん。「それらはなぜかくもやさしく、美しいのか」と考えるにつれ、確信するに至ったのが〈自然の中で、自然そのものをもろに受けながら生活している人たちの作品は必ず美しい〉という今回の名言です。
自然が相手だと、思い通りにいかないのが当たり前。素材に寄り添い、時間をかけてつくらざるをえません。そうして〈自然と人間が力を合わせることからうまれる〉ゆえに、美しくなる。自然と、そこで営まれる人々の暮らしを見つめてきた人物が発する言葉もまた、自然から生まれた手仕事同様、静かな力強さを秘めていました。
※肩書きは雑誌掲載時のものです。
澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。
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