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「好色一代男」江戸時代の女性至上主義男、世之介は究極のフェミニスト!?│山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」

『好色一代男』1961年公開。大映作品。DVDあり(販売元・角川書店)

溝口健二監督の『西鶴一代女』と対をなすのが、同じく井原西鶴原作の『好色一代男』。巨匠が女にとってこの世がいかに地獄かを流麗に描いた前者に対し、後者を撮ったのはイタリア留学経験のある当時37歳の増村保造。主演の市川雷蔵たっての映画化です。

京都の大店に生まれた世之介(市川雷蔵)は、どケチの親(2代目中村鴈治郎)とは正反対の女好き。女を喜ばせるのが自分の幸せという世之介は、江戸に修行に出されるも改心するどころかこれ幸いと放蕩三昧。しかしついに勘当されてしまい……。

3000人以上の女性を抱いた世之介は、光源氏の向こうを張った究極のモテ男。一見、病的にスケベなキャラだし、本作を観た男性は「これぞ男の理想の生き方!」みたいに思うかもしれません。

一般に、女好きな男性ほど実はミソジニー(女嫌い)。好色な男性は女を人間としてではなく「女」として、文字どおり上辺の美しさや肉体だけを愛します。しかし世之介の信条である「女を喜ばせること」は、ただの女好きとは一線を画しているのです。

しかも主人公が挫折し成長する、みたいな説教臭い展開はなく、世之介は懲りない&ブレない! そして世之介のセリフをよくよく聞けば、彼が大変なフェミニストであることがわかります。人生になんの喜びもない母親の人生を可哀想に思い、「日本中のおなごを喜ばしてやろうと決心した」という世之介の女性至上主義は終始一貫していて、女性の境遇にめっぽう同情的。「なんで日本のおなごっちゅうのはみんな不幸せなんやろ」と嘆き、なにがあっても女の味方を貫きます。

「それはこの日本という国が悪いねや。もっとええ国行こ。ほんまにおなごを大事にしてくれる国へ行こやないか」と言う世之介のセリフに胸がすき、この国に絶望した世之介が最後にとる行動がまたナイス。2019年のジェンダーギャップ指数121位という日本が抱える病理を鋭く突きまくった爽快作です!

山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。責任編集長をつとめた雑誌『エトセトラVOL.2 We LOVE 田嶋陽子!』が発売中。

『クロワッサン』1014号より

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