くらし

師走を迎えての噺家の過ごしかたをご紹介。│ 柳家三三「きょうも落語日和」

  • イラストレーション・勝田 文

「暮れは芸人さん忙しいんでしょ?」とお客さまからお声をかけていただく機会の多い季節になってきました。「ええ、そうですねぇ、まぁ、やっぱり……」と、肯定とも否定ともつかないような生返事でやりすごすことの多い私は“暮れだからとくに多忙にはならない”タイプの芸人です。

皆さんのイメージする“暮れの落語家の忙しさ”とは、企業やご贔屓の忘年会に呼ばれて小噺などで座を盛り上げ、それを一晩で何軒もかけ持ちして……という感じらしいのですが、私が噺家になった四半世紀ほど前は、バブル景気がはじけたあとの不況時代に突入した頃だったので、そういう光景は激減していました。

先輩の中には「数年前までは、ちょいと飲み会に顔出して小噺か謎かけをやればいい小遣いになる営業が、いくらでもあったんだがなぁ」と嘆くかたも多くいました。「ま、そのうち景気がよくなりゃ、またそんな仕事も増えるさ」と。しかしその後、思いのほか不況が長引き、その間に企業も個人も無駄なところに出費することを戒める風潮がすっかり定着してしまったからでしょう、多少景気が持ち直しても芸人があちこちの忘年会、新年会でにぎやかしに奔走するという風景が復活することはありませんでした。

けれど悪いことばかりではありません。いわゆる“お旦(だん)”はめっきり減りましたが、その代わりに落語好きなかたが小さいながら手作りの落語会を主催して、若手中心に勉強の場を与えてくれる“席亭”が増えたのです。おかげでみなさんが、身近で気軽に“落語日和”を楽しんでいただける機会もうんとできていますよ。

柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は下記にて。
http://www.yanagiya-sanza.com

『クロワッサン』1012号より

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