深緑野分さん×瀧井朝世さん 本を通して考える、複雑な世界をよりよく生きるヒント。
撮影・土佐麻里子、中島慶子 文・黒澤 彩
違う人種や文化圏の人が日本を書いてもいいんですよね。(深緑野分さん)
深緑 私は、その相棒役の登場人物がとても好き。クールな主人公がダメな相棒に振り回される話って大好物なんです。バディものだけど、2人のあいだに絆があるわけじゃないのがいいと思いませんか? そういう、人との関係の描き方でいえば、『ハイキュー!!』もすごくおすすめです。
瀧井 この漫画、いろいろな人に勧められて気になっていたんですが、まだ読んだことがなくて。バレーボールチームの話ですよね。
深緑 多彩な登場人物と、その関係性がすばらしい。一言でいうと、チームメイトだからって仲良くしなくてもいいんだと教えてくれているんです。
瀧井 どういうことでしょう?
深緑 人間としては嫌いだけど、チームメイトとしてお互いを尊重する感じ。友だちではなくチームプレイヤーとして相手を認めるという関係です。それって可能なんだ!と思わせてくれる。
瀧井 どうしても理解できなかったり、苦手だったりする人を「嫌い」と言って切り捨ててしまうのではなくて、自分とは違う存在として認めるということですね。無理に好きにならなくてもいいし、融合しなくてもいい。たしかに今の時代、とても大切な姿勢です。漫画からそれを学べるとは。
深緑 最初は嫌だなってやつも登場するんですが、その人がひねくれてしまった理由も描かれ、読み手もこの人はどうしたら過去に折り合いをつけられるんだろう?と考える。ある試合中、そのキャラが一瞬燃えるんですが、すぐまたいつもの冷たいやつに戻る。そこがいい。若い人たちがこういう漫画を読んでいると思うと、未来に希望が持てる気がしてきます。
瀧井 それは、大人も必読ですね。ますます読みたくなりました。
\深緑さんの おすすめ/
ハイキュー!! 1 古舘春一
チームメイトと友情で結ばれなくても認め合うことが希望に。
時間をかけて書かれたものをじっくり、ゆっくり味わう。
瀧井 ところで、読書というと冊数をたくさん読めばいいと思っている人が多いようですが、時間をかけて1冊を読みこんだり、同じ本を何度も読み返すほうが豊かだと思いませんか。
深緑 漫画でも小説でもいいですけど、時間をかけて読むのって大事ですよね。はやく、わかりやすくだと、脳が疲れてくれない。時間をかけて練られたものを、ゆっくり読むと頭がすっきりするというか、次にいけるんですよね。私の本も「長いから途中でやめた」という人もいれば、「久しぶりにこういう作品を読んでめちゃくちゃ疲れたけど、すっきりした」という人もいます。私は、ちゃんとみんなを疲れさせる作家になりたい。読者を裏切らないよう、信じてもらえるものを書かなきゃいけないなと思っています。
瀧井 ぜひ、私たちを疲れさせてください! 次回作も楽しみにしています。
\深緑さんのおすすめ/
\瀧井さんのおすすめ/
瀧井朝世(たきい・あさよ)さん●ライター。作家インタビュー、書評、文学アンソロジーの編集などで活躍。本誌連載「文字から栄養 よりすぐり読書日記」も好評。著書『あの人とあの本の話』(小学館)など。
深緑野分(ふかみどり・のわき)さん●小説家。短編集『オーブランの少女』でデビュー。2作目の『戦場のコックたち』(創元推理文庫)、最新作『ベルリンは晴れているか』(筑摩書房)が直木賞候補に。
『クロワッサン』1010号より