農場を大きくできるか!? │ 山口恵以子「アプリ蟻地獄」
イラストレーション・勝田 文
伯父さんから譲られた農場を経営し、発展させるゲームアプリ。農業経験ゼロでも案内役の案山子のウィッカーが指導してくれるから大丈夫。
小麦やトウモロコシの種をまき、実った作物を収穫し、荒れた家や納屋を修理して、エサ作り器を導入し、鶏を飼って卵を産ませ、パン焼き釜を買ってパンを焼く。収穫した農作物や卵、パンは町へ運んで売る。
やがて農場には商品を求めてお客さんが訪れるようになり、自前の売店で商品を売ることも可能になる。
しかし、その間も休みなく畑に種をまき、鶏に餌をやり、作物や卵を収穫しないと商品が品切になる。同時進行でいくつもの作業をやり続けないといけないのだ。
正直、私、これ苦手です。担当編集者の農場はどんどん拡大して行くのに、私の農場はピンチに……。
そもそも私は土いじりが嫌いなのだ。植物を育てようと思ったことは一度もない。だからゲームとはいえ、苦手意識は如何ともしがたい。
十数年前、ある人が我家の玄関先が殺風景で寂しいからと「金のなる木」の鉢植えを持ってきてくれた。
余計なコトすんじゃねえよ!
その人はしばらくの間、定期的に我家を訪問する予定だったので、枯らすわけにもいかず、私は大きな植木鉢を買ってきて植え替えて、毎日水をやって世話をした。もう、イヤでイヤでたまらなかった。
その人の来訪が終わると、喜び勇んですぐ鉢植えを手放した。
もちろん「金のなる木」はただの植物で、金なんか生らなかった。
山口恵以子(やまぐち・えいこ)●作家。近著に『夜の塩』(徳間書店)。
『クロワッサン』1006号より
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