くらし

伊藤比呂美さん×枝元なほみさん 程よい距離感が心地よい、女の友情を長続きさせるコツは?

  • 撮影・徳永 彩(KiKi inc.) 文・一澤ひらり

「軽やかさと深さと。実は大変な読書家だよね。(伊藤さん)」

枝元 私たちが最初に会ったのは40年以上前になるけど、ひろみちゃんの詩で現代音楽のパフォーマンスをするっていうので、知り合いから声かけられて参加したときだよね。ひろみちゃんは私のこと「ちょっと足りない人」みたいに思ったんだっけ。

伊藤 トロトロしゃべってて何が言いたいのかわからなくて。あたしはせっかちだから、じーっと我慢して聞いていたら、最後に「おー、なるほど」みたいなこと言うんだよね。

枝元 そのときにひろみちゃんが結婚するって話をしていて、次に会ったとき家に行ったら同じ食器が山積みになってた。「どうしたの?」って訊いたら、「結婚式の引き出物を配る前に離婚した」って(笑)。

伊藤 アハハ。いまでも覚えてるのは、ねこちゃんが転形劇場の劇団員になった頃かな。2人でラーメン屋に入ったことがある。そしたらねこちゃんがチャーハンを注文した。あたしはその頃摂食障害で、ラーメン屋もチャーハンも経験したことなくて。目の前で同い年の女が堂々と、あたりまえみたいに「うん、おいしい」とか言いながら食べるのを見た。未知のものとか生きることとか目の前につきつけられた感じで。すごいなあって感動した。

枝元 お互いまだ20代ですごい不安定だったけれど、海のものとも山のものともしれなかったあの頃のパワーみたいなものが懐かしいよね。

「まったく見栄を張らない人。だからつながってこれた。(枝元さん)」

男の話しかしないときもあった。いまは健康と食べ物の話だけど。

伊藤 あたしは学者の元夫と結婚して、28歳で長女のカノコを産んで、30歳のときに次女のサラ子が生まれた。それから離婚とかいろいろあって、再びつきあうようになったのは35歳のときからだよね。ひどい鬱状態になって、ねこちゃんちに逃げ込んだことがある。それからたびたび逃げ込んだけど、いつも受け入れてくれたでしょ。あのときの忘れられない味が、カマンベールチーズを1個まるごとチンして、とろっとろになったチーズをディップにしてパンや野菜を食べたこと。

枝元 あれはおいしかったよね。いまではけっこうスタンダードな食べ方かも。ひろみちゃんがアメリカで新生活を始めてしばらく経ってから、上の娘2人を連れて、ひろみちゃん抜きでネパールに行ったこともあったよね。

伊藤 あのときは親の介護で、熊本とアメリカを行ったり来たりだったから、ネパールに子どもたちを連れて行ってもらえてすごく助かった。

枝元 親が一緒ならともかく子どもだけを連れだして何かあったらどうするの?って周りから言われたけど、血縁とか関係なく、面倒見られる人が見ればいいじゃんって思ったんだよね。

伊藤 娘2人はそうやってねこちゃんに面倒見てもらえたし、亡くなった夫との間に三女のトメが生まれたときはアメリカにすぐ来てくれた。トメはねこちゃんのこと「ゴッドマザー」って呼んでるものね。

枝元 私は子どもがいないから、疑似体験させてもらった感じ? ひろみちゃんは自由奔放に見えるかもしれないけど、娘を3人育て上げたし、大学生とのやりとりを見ていてもきちんとフォローするから、先生に向いているんだなって思う。人の長所をちゃんと見てるよね。まったく見栄を張らないから、ぶっちゃけて話すことができるしね。

伊藤 男の話しかしないときもあった。いまは健康と食べ物の話だけど(笑)。

枝元 そうだね。男と別れたとか、どうのこうのを話せる女友だちがいたから生き延びてこられた気がする。「ねえ、ちょっと聞いてよ」ってビーッて泣きながらすがってた感じで。

伊藤 あたしもおんなじ。ねこちゃんはうるさいこと何も言わないしね。いつでも何やってもいいよって言ってくれる。男とのつきあいだと、メールしたらメール返せって思うけど、ねこちゃんはメール返さない人だから、何も期待しなくなって、それもよかった。

枝元 自分の家族とか、自分の男とか、“なほみズ”みたいな所有格の「’s」がつくと、人って要求が一挙に多くなるでしょ。でもひろみちゃんにはこうしてああしてって要求するものがないから、続いてこれたんだと思う。男ではそのことで散々苦労したけど(笑)。

伊藤 最近、私は学生の話をする。そしたらそれにちゃんと興味持ってくれて、一緒に学生の詩を読んだり、学生の芝居に行ったりしてくれる。それからねこちゃんはすごい量の本を読んでいて、あたしが読まないような難しい本も平気で読んでるでしょ。食べ物の話も、おいしいまずいじゃなくて、文化としてどうなんだっていうところにいく。話が尽きないわけだよね。

枝元 いや、難しい本はツンドク、です。ひろみちゃんの見方が的確だし、話も深い所に降りていける。で、皿洗いとか、自分がそこに居たらしそうなことはちゃんとやってくれる。それぞれが自立していて、相手のことを考えるっていうスタンスがいいんだと思う。

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