くらし

時代も国も越えて、今ここに。骨董を現代の暮らしに取り入れる。

  • 撮影・三東サイ 文・西端真矢
昭和初期の階段箪笥。湖心亭さんはフラワースタイリストとして活動していた時期もあり、花材、器、場所を吟味して部屋に四季の草花を欠かさない。
箪笥の内部には、絵唐津など折々集めた酒器を収納している。
こちらも小型の李朝膳。1本の木をくりぬいて作られた堅牢なもので、晩酌に手ごろな大きさ。

改めて、湖心亭さんの部屋を見回してみる。まず目に留まるのは、膳と同じ李朝時代のパンダジ(寝具や衣類をしまうもの)。一方、日本の町家で使われてきた階段箪笥もそのすぐ後ろに並ぶ。かと思えば、ずっしりとした仕事机や背の高い食器棚は、フランスのアンティークだという。高麗祭器の下に何げなく敷かれた布はエジプトの古代裂(ぎれ)で、7世紀のもの。時代も国も大きく隔たった骨董たちが、一つの空間を作り上げているのだ。

古代から現代まで。自分の感覚を磨き、自由に選ぶ。

「でも骨董だけでもないんですよ。ここへ越してきて最初に買ったのは、実はこの革のソファ。イタリアのロドルフォ・ドルドーニのデザインです」

壁にかかる鏡の、絵画の額縁のような枠も、現代のもの。現代日本人作家の白磁花器は、宋代の中国白磁のそばに、ぽんと置かれている。骨董といえば時代や地域を絞ってコレクションすることが多いなか、まったくのフリースタイル。それが不思議なくらい調和しているのだ。

「私には、原点になる2つのスタイルがあります」と振り返る。「一つは、中国や韓国ものを中心に、骨董を商っていた叔母の店。ごく普通の一軒家の一室に旅先で自ら買い付けてきた様々な骨董が置かれ、町の人に愛されていました。私自身、自分の趣味にかなうものに囲まれて暮らしたいという願望が強く、高校生のときには、気に入らないからと実家の絨毯をはがしてしまったくらい(笑)。もう一つはパリ。大学生になり、休みの期間にはパリでアパートを借りて過ごしたことも。趣味のいい部屋を調べ、ただそこで暮らすことだけが目的でした」

そのとき出会ったパリのマダムたち、そして叔母もアンティークと現代のものを上手にミックスさせていた。その記憶が今のスタイルにつながっている。
「もちろん、失敗もたくさんしました。これだ、と思って手に入れたものが、使ってみるとしっくりこないこともあります。相性がよくなかったのでしょう。不思議なことに、少しすると飽きがくるんですね。ほかの人が使うと信じ、きっぱり手放します」

そしてまた吟味する。木の茶色、黒、青、緑、そして白。好みの5色が自然に選ばれ、赤系統のものはほとんど入らない。もの自体を見ているから、国や時代にはこだわらない。

ハンガリー地方の農家で使われていたという、小ぶりの台。素朴なフォルムは、あたたかさと力強さをたたえている。表面には刃物でつけられた無数の傷があり”野菜を切るのに使っていたのかも”などと想像するのが楽しい。
床に座って肘をついたり、お茶を飲む際のテーブルにしたり、オットマンにしたり。絶妙な高さが様々な用途に寄り添ってくれ、「まるで生き物みたいだと思うんです」。

骨董は、物語。この部屋の すべての骨董に物語がある。

「骨董って、物語だと思うんです」と湖心亭さんはつぶやいた。「骨董屋さんは、これこれこういう所で使われていたものですよ、と教えてくれるけれど、本当にそうかどうかはわからない。すべてがなぞなぞみたいだな、と」

そんな謎を秘めたものが、自分の暮らしに入り込む。もしかしたらその瞬間から、元の持ち主との時空を超えた対話が始まるのかもしれない。

「そう。それが骨董の醍醐味だと思います。ただ美しいだけではない。自分が使うことで、さらに新しい物語を加えていく楽しさ。骨董のある部屋は、だからあたたかいのだと思います」

ソファ横のコーナー。宋代磁州窯の白磁花瓶、アールデコの錫器、フィレンツェで出合った17世紀の木製丸箱がしっくり同居する。
大正時代の書き物机に、李朝三島象嵌の皿と、日本の現代作家・光藤佐(みつふじたすく)さんの掻き落とし偏壺(へんこ)。こちらも違和感なく調和して。
玄関でひときわ存在感を放つ傘立てはインドの古道具。

湖心亭(こしんてい)さん●インテリアデザイナー。亡き叔母が営んでいた骨董店『湖心亭』の名を受け継ぎ、骨董のある暮らしをインスタグラム(@koshin_tei)で綴る。骨董店の開業が夢。

『クロワッサン』1001号より

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