からだ

“もの忘れ”でも受診可能!脳ドックでわかったこととは。

自分の忘れっぽさの度合いが、最近どうも進んでいるような……心あたりはありませんか? 今こそできる対策があります。ここで学んでおきましょう。
最近もの忘れが気になるという文筆家・大平一枝さんによる、脳ドックの体験レポート。
病院を出る頃には、不安が安心に変わっていたそうです。
  • 撮影・角戸菜摘 文・大平一枝
文筆家・大平一枝さん(左) 脳神経外科医・小林信介さん(右)

もの忘れで病院に行ってもいいんだ。ひどく安心しました。(大平さん)
脳ではない別の病気が見つかることも。気になったら気軽に受診してください(小林さん)

子育てが一段落して、酒を飲みに行く機会が増えたからだろうか。とにかくもの忘れがひどい。3軒行ったうちの1軒の記憶がまるごとなかったり、お代も誰が支払ったかもわからないことがよくある。だが、酒なしでも昨日言ったことを忘れていると家族に指摘されることが続いたとき、ネットで「もの忘れ、病院」と検索していた。

小林信介先生の上野毛脳神経外科クリニックのサイトには、大きく「こんな症状でお困りでしたらご来院を」と書かれていて、「頭痛、しびれ、めまい、もの忘れ」とあった。そうか、もの忘れという症状で堂々と病院に行ってもいいんだなと、ひどく安心した。症状があるので、保険も利くという。最新のMRIを使い、保険診療内で脳ドックと同様の検査が受けられるのだ。結果を当日聞けるのも、せっかちな私にはありがたい。脳神経外科というと、なんだか敷居が高く、遠い世界に感じていたが、ぐっと気が楽になり、赴いたのが1年前のこと。

結果は、「動脈の一部がつまっている部分が2カ所あります。年齢的にはありうることで今すぐどうということはありませんが、年に1度、検査を」と言われた。その2回目に、編集部が同行。診察と検査の詳細を綴る。

MRI検査室のすぐ隣で、窓越しに患者の様子を見ながら画像を解析する小林さん。

アルツハイマーの初期は、短期記憶から落ちていく。

問診票の記入後、すぐ診察室に呼ばれ、看護師から「長谷川式スケール」(通称長谷川式認知症テスト)という知能検査と、図形や立体感覚に関する検査を受ける。前者は、時刻を時計盤の絵に描く、思いつく限りの野菜の名を言う、ランダムに聞いた数字を逆から言うなど9問。いちばん、ドキドキするのは無関係な品物が5つ入った小箱を見て、数分後、なにがあったか答えるものだ。去年は言えたのに、今年は1つ、どうしても思い出せなかった。

小林先生によると、アルツハイマーは、短期記憶から落ちてくるので、このような簡易な検査でも初期兆候を見つけやすい。また、図形や立体感覚も初期から低下するので、時計の針の中心の位置や方向、図形を真似して描くような検査は有効だそう。私に初期兆候はないとのことだが、品物を全部言えなかったのが心残りだ。

実際の大平さんのMRI画像。動脈の一部がつまった部分が白い斑点(赤丸部分)になっている。

検査後すぐ、自分の脳内画像とパソコンで対面。

次はいよいよ最新型のMRIである。通常はドーム型にすっぽり入り、頭はコイルで固定され、暗く、閉塞感がある。こちらは、カバーはあるがオープン型だ。日本製1社しかなく、希少らしい。私には、最新機器以上に、検査が始まるギリギリまで看護師が付き添い、検査中は隣室で小林先生が、有線LANで転送される私の脳のデータを見守ってくれていることが印象的だった。不安でいっぱいななか、知らない技師から看護師、医師へと流れ作業で進んだら、きっと腰が引ける。私のように、もの忘れをきっかけにわずかな動脈瘤の予見があり、毎年検査が必要な場合、ひとりの医師に一貫して検査を見守ってもらえる環境は、大きな魅力の一つだ。小林先生は言う。

「勤務医時代、慌ただしくてレントゲンの説明ができなかったり、頭痛の患者さんにMRIの検査を受けてもらうことができず忸怩(じくじ)たる思いがありました。自分が開業したら技師を入れず、全部自分で診ようと決めていました」

もの忘れは、アルツハイマーだけではない。女性に多い甲状腺の病気が見つかることも多い。また、薬で進むこともあるそうだ。

20分のMRI検査の数分後、診察室のパソコンで、自分の脳の3D写真と対面した。去年の脳梗塞痕の白い影がまだあるが、大きくはなっていない。とくに睡眠や食事、深酒に気をつけるよう助言された。食べ過ぎは動脈硬化の発症を促す。知識として脂肪やコレステロール過多はよくないとわかっているが、自分の脳の白い影を見ながら説明されると、恐ろしさの深度が全く変わる。更年期の不眠で服用している薬も控えるようアドバイスが。もの忘れをきっかけに、これから老化していく自分の脳について、相談できるかかりつけ医ができた気分だ。得たのは安心と予防と正しい知識である。まずは、食事と睡眠の質を改善していこう!

今回、クリニックで 受けた脳ドックの流れ。

【1.問診】はじめに問診票を記入する。「カラーコンタクトレンズをしているか」「義歯をしているか」といった細かい質問があるのは、MRIを安全に受けるため。
【2.テスト】続いてヒアリングテスト。「長谷川式簡易知能評価スケール」に沿って、看護師さんの問いかけに応える。このあと空間認知機能を確認する時計描画テストも行う。
【3.MRI】次にMRI検査に移る。オープン型は珍しく、これを求めて遠くから足を運ぶ患者さんもいるのだとか。通常のタイプにある圧迫感や恐怖感がなく、リラックスできる。
【4.診察】最後はMRIの画像を見ながら診察を受ける。その日に結果がすぐに出るので、不安が募ることもない。1年前と同じく脳梗塞痕の白い影が見えたが、問題はなさそうだ。

上野毛脳神経外科クリニック
脳神経外科、脊椎・脊髄外科、一般内科。東京都世田谷区上野毛3-14-14 1F TEL.03-5758-1150 診療時間:9時〜12時30分、14時〜17時、土曜9時〜13時 休診日:水曜、土曜午後、日曜、祝日

大平一枝さん(おおだいら・かずえ)●文筆家。1964年生まれ。著書に『東京の台所』『男と女の台所』(共に平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)ほか多数。

小林信介さん(こばやし・のぶすけ)●脳神経外科医。1969年生まれ。上野毛脳神経外科クリニック院長。脳神経外科医として約20年勤務したのち、2012年にクリニックを開設。脳疾患のほか、脊椎脊髄疾患も専門とする。

『クロワッサン』997号より

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