唾液があまり出ないのは、加齢が原因ではありません。
撮影・岩本慶三 イラストレーション・川野郁代、山下カヨコ
唾液が出にくくなってきた……どんなトラブルが起こるようになる?
唾液の分泌が低下することで、思いのほか多くのトラブルに見舞われることになるのは注意したいところ。前述のように、唾液が口中のpHをコントロールして中和したり、歯のエナメル質を修復することで、口腔内の健康は保たれている。それが失われてしまうと、容易に虫歯や歯周病になってしまうということは、想像するに難くない。
また、唾液が少なくなると口腔内が乾燥し、自浄性も低下して口臭や口内炎にも悩まされることに。
なかでも深刻なトラブルにつながりかねないのが、「充分に噛めない」「滑らかに飲み込めない」が契機となり、基本的な生活の質が低下することだ。
「唾液をごくんと飲み込むエクササイズというのがあるんです。自分ののどぼとけの上に、手のひらが水平になるようにして触れてみてください。そして、唾液を一生懸命に溜め込んでごっくんとすると、手を乗り越えていったん上がったのどぼとけが下がる。これがきちんと上下している状態です。以前ある化粧品メーカーのもとで調査したところ、介護施設では一回もごくんと飲み込めない人が」
そのため、スキンケアの要領で化粧水を顎の周りや首のところに塗ってもらい、自然と唾液腺が刺激されるように指導したのだそう。これを1カ月続けてもらったところ、28人全員が1回はきちんと唾液を飲み込むことができるようになったという。
「唾液を溜めて飲み込むのを、4回できるのが普通です。3回を切るようなら嚥下力が落ちている状態。それが続くと、機能がだんだんと落ちていくので、たとえ歯が残っていたとしても、ゆくゆく刻み食やミキサー食になっていく可能性が高くなります。ゆっくり唾液を飲み込むとお腹がへこみますよね。それは、嚥下して腹筋を使っているということ。飲み込む時もトイレに行っても、腹圧がかかっている。人体の入り口と最終的な出口は、筋肉でつながっているのです」
また、通常は唾液腺を触ったりという刺激がなくても、口中は乾かないようになっている。これ以上乾燥させては困るという指示が脳にいくと、自然と唾液が出るようになっているからだ。
「これを安静時唾液といいます。でも、日常でも唾液が蒸発したり、口中が乾いたりすることもある。そんなときファーストチョイスとして、つい水やお茶を飲みたいと思ってしまいがちですが、あえて我慢して自分で唾液を出すようにしてみてください。とにかく、いかに機能を低下させないかにすべてかかっています」
宝田恭子(たからだ・きょうこ)●宝田歯科医院 院長。東京歯科大学卒業後、宝田歯科三代目院長に。日本アンチエイジング歯科学会監事。著書に『日めくり まいにち、美顔トレ』など。
『クロワッサン』978号より
広告