からだ

糖尿病になりたくなければ、いますぐ歯周病を治そう。

  • 撮影・森山祐子 イラストレーション・川野郁代 ヘア&メイク・遠藤芹菜(坂本さん) 文・越川典子、青山貴子、高橋顕子

歯科で糖尿病が発見される、内科で歯周病が発見される時代に。

「歯周病の治療をすることは、糖尿病の薬1種類に匹敵します」(西田さん) 「歯のケアは、病気予防だけでなく、全身のアンチエイジング法です」(坂本さん)

西田 震災後肺炎って、最近耳にしませんか? 実は、僕が名づけた病名。

坂本 はい、知っています。

西田 誤嚥性肺炎のことなのだけれど、東日本大震災後、誤嚥性肺炎が増えたのは口腔ケアができなかったからだとわかったんです。ケアをしていた施設では、死亡者は少なかった。

坂本 高齢者や、ある特定の状況にいる人は、プロの手を借りないとケアが難しいですね。今、問題になっているのは、インプラントで周囲炎を起こしている人のケアです。セルフケアはもちろん、歯科医院でのプロケアが必須です。すでに歯周病の人は、必ず歯周病を治してからでないと危険です。

西田 糖尿病患者で、人工股関節の手術をした人が、敗血症になったことがありました。HbA1C(ヘモグロビンエーワンシー)値は悪くなかったのですが、あとからインプラント周囲炎とわかったんです。

坂本 医科と歯科の連携がとれていて、患者とも情報を共有できていれば、と悔やまれる例ですね。最近やっと少しずつ双方の連携の重要性が認知されてきましたね。

西田 糖尿病手帳も、歯科との連携を記入する欄が広くなったし、内科と歯科の連携に、保険の点数がつくようになりました。これで、医師側の認知が少し高くなるかな。ただ、医師まかせにしないことも大事です。患者の立場から医療を動かすくらいの気持ちでいてほしい。糖尿病なら、「先生、歯周病治療を始めましたよ!」と内科医に宣言する。

坂本 歯科では、糖尿病の治療中であることを伝え、「糖尿病手帳」を提示してください。

西田 患者が変われば、医師も認識を新たにせざるを得ない。そうそう、内科医の立場から一つ、気をつけてほしいことがあります。歯科医に行くとき、飲んでいる薬を必ず伝えてくださいね。降圧剤を飲んでいる人は多いと思うけれど、カルシウム拮抗薬は副作用で歯茎が腫れることもありますので。

坂本 歯周病・むし歯・噛み合わせ・歯並び……歯や口のケアは、全身の健康を守るためにも重要なんです。まさに、人生のQOL向上に直結しているといえるんじゃないでしょうか。

「1億総歯周病時代」といわれる根拠を知っておこう!

●厚労省の調査では、糖尿病有病者とその予備軍は約2050万人。しかし、実際は4000万人いるという説もある。
●香川県のある調査によると、小学4年生の男子の15%、女子の14%がHbA1C値が5.6%以上だった(ほぼメタボリックシンドロームといえる数値)。
●歯周病があると、認知症は1.9倍、心筋梗塞は2.7倍にリスクが上昇する。
●歯を5本以上失うと死亡リスクは1.3倍、10本以上だと1.5倍、20本以上だと1.8倍になる。
●歯を10本失うと、肺炎による死亡率は2.5倍に増える。
●歯を20本失うと、大腿骨骨折は5倍に増える。高齢であるほど寝たきりになる危険が高まる。
●週5回以上、歯間ブラシやフロスで掃除をしている人は、していない人に比べて、死亡リスクが25%も減る
●早産の兆候があった46人の妊婦の約半数から、羊水の中に細菌が検出された(歯周病菌が30%)。検出された全員が早産を起こした。
●血糖値を上げるホルモンは複数あるが、下げるホルモンはインスリンのみ。糖尿病を発症するとき、すい臓がインスリンを作る力は健康な人の2分の1まで落ちている
●歯周病を放置していると、悪玉ホルモンにより血糖値が上がってしまう。
●1993年には「歯周病は糖尿病第6の合併症」と、歯科医師が提唱。
●歯周病治療により、HbA1Cが0.4〜0.7%低下し、糖尿病が改善することがわかった。この効果は、糖尿病の飲み薬1種類に匹敵する。
●2016年の『糖尿病診療ガイドライン』に、日本糖尿病学会は「糖尿病患者への歯周治療を推奨する」と明記。
●口腔内を正常に保つ唾液は、1日約1.5L分泌される。噛まない柔らかい食事ばかりしている人は、どんどん唾液が出にくくなってしまう。

資料提供:にしだわたる糖尿病内科 参考:『歯科医院に知ってほしい 糖尿病のこと』『糖尿病がイヤなら歯を磨きなさい』(共に西田亙著)

西田 亙(にしだ・わたる)●にしだわたる糖尿病内科院長。医学博士、糖尿病専門医。愛媛大学医学部卒業、同大学院修了。著書『内科医から伝えたい 歯科医院に知ってほしい 糖尿病のこと』など。

坂本紗有見(さかもと・さゆみ)●銀座並木通りさゆみ矯正歯科デンタルクリニック院長。東京歯科大学卒業。日本アンチエイジング歯科学会常任理事、日本美口協会代表理事ほか。矯正を通じてすべての人の人生をサポート。

『クロワッサン』978号より

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