からだ

歯周病やオーラルフレイル対策に、今から始める口腔ケア。

全身の健康の鍵となる歯。
長く付き合う秘訣を専門家に聞きました。
  • イラストレーション・山本由実 構成&文・中條裕子

生活の質を保つために 今から心がけたい歯のケア。

こんなことありませんか?

□ 歯茎から出血がある
□ 食事の際にむせる
□ 滑舌が悪くなった

80歳で自分の歯を20本以上保つーー平成元年に提唱された8020運動は、具体的な目標値が当時、話題になった。

「現在は本数にこだわるより、きちんと噛んで食事が取れる口をめざしましょう、という意識に変わってきています」

と、予防医学の観点から口腔ケアの大切さを発信する歯科医の照山裕子さん。

「口から全身に飛び火する病気が生まれないようにする、かつ食事をしっかり取れるようにする。それには、口の機能全体を保つことが何より大切です」

そのために欠かせないのは、日々のセルフケアと専門家による検診。2つを欠かさず、自身の歯で長くおいしく健康な毎日を送れるよう心がけたい。

大人が歯を失う2大原因は、 歯周病と虫歯。 ぜひ対策を!

「50歳くらいになると、年齢とともに歯周病の罹患率が上がってくる。歯茎はあまり痛みを感じないのでそのまま見過ごしている場合が多いけれど、実はすごく危ないというのが歯周病の怖さです。虫歯と同様、大人が歯を失う原因になっています」

歯周病で歯茎が下がると、露出した根元の部分から虫歯になるリスクも。この根元虫歯に加え、年齢を重ねてからは、以前に治療して詰め物をした部分が再発してしまう虫歯への対策も疎かにはできない。

「きちんと歯磨きしているつもりでも磨き残しがあったり、年齢とともに唾液の出が悪くなって口内の汚れが洗い流されず、その部分が弱くなったり。あとは、噛み締めていることでできる細かい傷から虫歯が進むこともあります。大人には〝ならでは〟のリスクがあるんです」

また、歯周病と虫歯はしっかり区別して対策しないといけない、と照山さん。3カ月に1度程度、歯科医院で定期検診してもらい、あとは自宅でのチェックも怠らずに。歯茎や口の中に異変がないか、日頃から自分でも気をつけて見ることが大事。

「歯周病のリスクは個人差があるけれど、抵抗力や免疫力が下がると体の弱い部分に現れ、脳梗塞、心臓疾患、糖尿病などの症状につながることも。口をきれいにすることと、全身の健康管理は両輪なのです」

【check】
□ 歯茎から出血がある
□ 口の中がネバネバする
□ 歯茎が赤黒くなった
□ 口臭が気になる

今からでもきちんと身につけたい、正しい歯の磨き方。

検診は必須とはいえ歯周病治療の主役はあくまで本人、と照山さん。

「クリニックで歯石を取ってもらったら、その状態をなるべく次の検診までキープするようにしてください」

歯ブラシやデンタルフロス、歯間ブラシの選び方は一般的なおすすめはあるものの個人の状態により異なるので、歯科衛生士さんに自分に合ったケアを教えてもらうと早道。

「歯磨きは1日3回にこだわって、ちゃちゃっと済ませるのではなく、1日1度はきっちり汚れを落とし切ることに重点を置いてください。夜しっかり磨くなら、朝はささっと磨き、昼はフロスで隙間を掃除してゆすぐだけ、でもいい。私自身、鏡と睨めっこして、いつもここに磨き残しがあるからと意識しながらブラシを歯に当てています。就寝中は最もリスクが高いので、基本的には夜のケアをしっかり行ってください」

歯磨き粉もブラシと同様、好みや必要に応じて試してみて。自分に合ったグッズをいろいろ取り入れて、オーラルケアを楽しむことが大事。

歯ブラシのヘッドは親指の爪の長さが基準。

磨きやすい歯ブラシを選ぶときにまず注目すべきは、ヘッド。大きさは自分の親指の爪を基準にして。女性はコンパクトサイズになることが多い。

毛の並びの列も実は、磨きやすさに関係が。

ヘッドをよく見ると、毛の並びにも種類が。4列もあるが、右のような3列、左のコンパクトはヘッドが小さく、小回りが利いて磨きやすい。

毛先はスタンダードな直線型が間違いなし。

先端が細かったり、太さが異なる毛を組み合わせたタイプもあるが、まずは直線型を。ブラシは鉛筆のように持ち、1本ずつ丁寧に動かして。

知らないうちに陥っている、オーラルフレイルに注意!

「年齢を重ねると、口の筋力も落ちるんです。口を閉じる、飲み込む時に舌で押さえるなど、いろいろな筋肉を総動員することで食べ物を噛んで塊にして飲み込める。筋力が衰えると食べ物をしっかりこねることができなくなって、飲み込む力が落ちるというのが、いわゆるオーラルフレイルという危険な状態です」

対策としては、とにかく口の筋肉を動かすこと。その点では、実はおしゃべりをすることも効果的。
もう一つ、日常的に取り入れやすいのが、グミ。硬さを示すチャート入りの商品があるので、自分の噛む力がどのくらいか客観視できる。たとえば、標準の3を噛んで疲れるようなら顎の力が弱っているので、より軟らかなものから試して噛む力をつけるようにして。おやつの時間を利用して手軽に口のトレーニングができる。

「顎を使うことはすごく大事。グミを噛むほかに、汚れを取るという目的と口の筋肉を鍛える、という両側から私はうがいを提唱しています(下のイラスト)。うがいは舌で水を狙ったところに当てるのが案外大変。以前この方法を試した方から二重顎が解消されたというお声も。口の中の筋肉を使うので、もちろんフレイルにも効果がありますよ」

【check】
□ 食事の際にむせる
□ 食べこぼしが増えた
□ 口の中が乾く
□ 滑舌が悪くなった

口周りを素早く動かし口輪筋や舌筋を鍛える。

まずは基本。30mlほどの水を口に含んで舌の上にのせ、口を閉じる。上下の前歯に水をぶつけるように、口をぶくぶくと速く強く動かす。10回ほど行ったら水を吐き出して。

鼻の下が膨らむほどの強さで行うようにして。

水を口に含んでから、口を軽く閉じる。上の歯の裏側に向かって水を強くぶつけるようにして、ぶくぶくと素早く動かす。10回行ったら、その後に水を吐き出す。

横から見て、唇の下が膨らむくらいの強さで。

同じように、水を口に含んで軽く口を閉じる。今度は、下の歯の裏側に水を強くぶつけるようにして、口をぶくぶくと10回素早く動かす。その後、水を吐き出して。

左右のぶくぶくの後、最後にガラガラうがい。

水を含んで口を閉じ、まずは左の奥歯に水を強くぶつけるようにぶくぶくと10回素早く動かし、水を吐き出す。右側も同様に。最後に天井を向いて、喉でガラガラうがいを。

照山裕子

照山裕子 さん (てるやま・ゆうこ)

歯科医、歯学博士

歯科クリニックにて診療を続ける傍ら、『歯科医が考案 毒出しうがい』『新しい「歯」のトリセツ』など口腔ケアについての著書も刊行。

『クロワッサン』1104号より

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