糖尿病になりたくなければ、いますぐ歯周病を治そう。
撮影・森山祐子 イラストレーション・川野郁代 ヘア&メイク・遠藤芹菜(坂本さん) 文・越川典子、青山貴子、高橋顕子
週末ごとに、愛媛の松山から全国各地に講演に飛ぶという西田亙さん。大人気の講演タイトルは、「炎症を通してつながる歯周病と糖尿病」。口腔内の感染症を、医科と歯科とを結ぶことで防ごうと考えている。一方、汚口大国日本からの脱出を目標に「日本美口協会」を立ち上げ、知識の普及につとめる坂本紗有見さん。しっかりタッグを組んで、日本中の歯周病&糖尿病をなくすべく尽力する二人に、〈医科×歯科〉の最新動向を聞いた。
坂本紗有見さん(以下、坂本) そもそも、西田さんが糖尿病の原因に歯周病があると気づいたのは、愛媛大学医学部の研究でしたでしょうか。
西田亙さん(以下、西田) そう、8年前です。重い合併症の患者さんを調べたらひどい歯周病を持っていた。それで愛媛大学と愛媛県内の一般歯科外来とで共同調査を始めたんです。
坂本 結果はーー。
西田 平均年齢61歳、716名の受診者の約32%が糖尿病の既往症があった。歯科には高血糖の患者が潜んでいることがわかったんですね。
坂本 歯科の専門書をよく読めば、実は糖尿病との関連が書いてある。けれど、知らない歯科医は大勢います。私も、西田さんの講演をはじめて聴いて、これは歯科界や市民に広めなくてはならないと思い、関連の学会や市民講座でご講演いただきましたね。
西田 糖尿病専門医も同じですよ。お口をあーんして、と喉の奥はよく見るけれど、歯や歯茎を見るなんて考えてもいなかった。でも、もう内科の医師だけでは対応できない時代が来ている。すでに2016年で100歳超えの人が6万5000人もいる。糖尿病は高齢とともに罹患率が高まりますからね。
坂本 同時に歯周病の罹患率も。
西田 だいたい、言葉がいけない。ペリオって歯科医が言うでしょ。それ、歯周病のこと? わからない。もっとわかりやすい言葉を使ってほしい。
坂本 たしかに。ペリオって、おいしそうな飲み物みたいですものね。
西田 歯周病だって、軽い。怖くない。昔は歯槽膿漏と言っていた。もっと昔、江戸時代は歯腐れ病といって、不治の病として恐れられていたんですから。
坂本 今は、多少歯茎から血が出ていても、たいしたことないと思っている人が多いけれど、とんでもない。まず腫れて歯周ポケットができ、ブヨブヨに。歯茎が下がって歯を支える歯槽骨が溶け、歯がぐらついて抜け落ちる。これが歯周病です。28本の歯に歯周ポケットが5mmある人は、手のひらが出血しているのと同じなんです。
西田 その傷口から、歯周病菌がじかに血管に流れ込む。まるで、点滴注射でわざわざ菌を入れているようなもの。
坂本 歯周病菌は、空気を嫌う嫌気性菌だから、歯周ポケットに入り込んで増殖する。マウスウォッシュくらいじゃ除去できない。
西田 増えた歯周病菌はそれ自体も血中で悪さをするのだけれど、菌と免疫軍団が闘うことで、さまざまな炎症反応を引き起こしているんですよね。
坂本 だから、歯茎の表面の菌を毎日のセルフケアで、歯茎の中の菌は定期的に歯科医院のプロフェッショナルケア(プロケア)で除去するのが理想です。
西田 坂本さんのクリニックでは、患者は女性が多いと聞いていますが、歯周病と女性はすごく関係がありますね。
坂本 そうなんです。妊娠中と更年期はとくに注意。ホルモンのバランスで、歯周病になりやすくなるから。私のクリニックでは、妊娠の可能性のある女性には、必ず微小炎症を測るCRP検査をして、歯茎の腫れや歯周病の危険性のチェックをしています。
西田 早産のリスクは少しでも減らしたいですからね。ただ、女性だけが歯周病ケアをしても、パートナーである男性が菌だらけだったら意味がない。キスをすれば、簡単に移ってしまう。
坂本 親子だってそうですよ。さすがに今は、口移しに食べ物を食べさせる親はいないでしょうけれど、うっかりでも親の箸で子どもに食べさせるのは避けたほうがいい。