が、そんな心配も何のその。消灯後5分ほどで田中さんは入眠し、翌朝、スタッフに声をかけられるまで起きなかった。本番に強い田中さんである。いや、本番に強すぎる田中さんである。
数日後、検査結果を聞きに再び病院へ。打ち出されたグラフや数字に目を落とした柳原さんがにっこり笑った。
「きれいな検査結果ですね。呼吸の問題はありませんし、PLM数値もこれくらいであれば問題ないでしょう。睡眠深度も何度も最高レベルに達していて、むしろ普段の寝不足が疑われるくらい(笑)」
よりによって検査当日の超快眠、まさかのハイスコアを叩き出したその原因は何か?
「環境が変わるとよく眠れるという人は案外多くて、田中さんもそうだったのかもしれません」
不眠を訴えていた人が旅行に出ると、ころんと寝てしまう。そんな事例を柳原さんはこれまでに何度も診てきたそう。ここで鍵となるのが部屋の条件付けという考え方。
「旅行で寝られるのは、自室で寝られない時の条件付けが外れるから、という場合が多いんですよ。問診の時にも言いましたが、布団の中を考える場所にしないことです。考える時には寝室を出て、隣の部屋で考える。眠れない時は隣の部屋で音楽を聴く、あるいは写真集を眺める。部屋によって日常モードのスイッチを切り替えるようにするといいと思います」(柳原さん)
「なるほど。今までは夜中に目を覚ますと、用もないのにベッドの中でスマホを見たりしてました。まずは環境にメリハリをつけることなんですね」
実際に検査を終えた翌日、田中さんは再び自室で寝ようとすると、自分のベッドのまわりがいかにいろいろな音に囲まれているかということに改めて気がついた。耳元で時を刻む置き時計、冷蔵庫の音、加湿器の音……。
「眠るための環境が全然なってなかったんだと思いました」(田中さん)
「これからの季節は室温や湿度にも注意してみてください」(柳原さん)
がんばれ、田中さん。