気温差で夏のお腹は疲れ気味。医師に聞く、調子が悪いときの腸活考。
撮影・小川朋央 イラストレーション・松栄舞子 文・熊坂麻美
夏に起こりやすい腸の不調の原因について、イーク表参道の院長・古川真依子さんは「脱水と温度差」を挙げる。
「汗などで体内の水分が失われて脱水状態になると、血流も滞りがちになり腸の動きが鈍くなります。また気温が上がるほど室外と室内の温度差が大きくなり、自律神経の働きが乱れて腸に悪影響を及ぼすのです」
症状で目立つのは、便秘や下痢、お腹の張りや食欲不振など。さらに冷たい食べ物や飲み物を摂りすぎることでも胃腸の働きが低下し、夏バテを引き起こすことも。
「腸活というと、発酵食品を食べることがよく勧められますがそれは調子がいいときの話。まずは、こまめな水分補給と、冷たいものを避けて消化のいい食事をする。これを心がけることで、腸の調子が整い、夏バテも防げます」
夏特有の症状に加え、40~50代は更年期が絡んだ腸の不調も現れやすい。
「生理前は便秘になる人が多いように、腸は女性ホルモンの影響を受けやすい臓器。更年期はホルモンバランスの乱れから交感神経が優位になりやすく、腸の蠕動運動に不調をきたして便秘や下痢に傾く人が多いです」
対処策としては、お腹に張りを感じているときは食べすぎないように気をつけながら、適度な運動を習慣づけると効果的。
「通勤や買い物の際に姿勢を正して早歩きするなど、少し心拍数が上がる程度の有酸素運動を毎日10分間続けてみてください。全身の血流が上がって自律神経のバランスが整い、腸の動きも改善に向かいます。適度な運動は夏の冷えにも有効です。40代以降は仕事や家事、介護などに忙しい世代だからこそ、なるべく気晴らしできるような自分の時間を持ってほしいですね。ストレスをうまく発散することも腸を健康に保つカギになります」
便秘も下痢も、まずは腸を労ることが大切。
腸の不調として目立つ便秘と下痢。便秘には個人差があり、2日に1度程度の排便でも不快な症状がない人もいれば、毎日排便があってもスッキリしない人も。お腹が張っていつものボトムスがきつい、食欲がないなどが便秘のサイン。下痢は水分の多い軟便で排便の回数が増える傾向がある。
「便秘も下痢も腸の機能が落ち、腸内細菌のバランスが乱れた状態。消化のいい食事を心がけてください。腸活にいいとされる発酵食品や食物繊維、生野菜は腸に負担をかけやすく、下痢はもちろん、便秘のときも症状が長引く場合はいったん控えたほうが無難です」
便秘のときは食べすぎは禁物。食べたもので便が押し出せそうだが逆効果。
「腸の動きが弱って便がとどまった状態なのに、さらに出せない便ができて便秘が悪化しかねません。食事の量を控え、おかゆやスープなど食物繊維が少なく便になりにくいものを選んで食べてください。便秘の人は朝食を抜く人も多いのですが、それも問題。朝起きたら水や白湯を飲んで腸を目覚めさせ、軽くでも朝食を食べることで腸の動きが促されます」
夏に下痢が続いているときは特に体の水分が不足しがち。充分な水分補給を。
「乳製品、脂質の多いものなど、お腹がゴロゴロしやすいものは避け、食事の量は普通で大丈夫です。水分をたっぷり摂れるスープ類はおすすめですよ」
就寝の3時間前までには夕食を済ませることも、腸の機能回復に役立つ。
「食べたものの消化と吸収がひと段落するのがその時間。就寝中は腸の蠕動運動が盛んになって栄養や水分の消化と吸収がさらに進み、翌朝便を出す流れが整います」
夏は水分、運動、主食を見直す。
夏に気をつけたいのは脱水。水分不足は便秘に直結する。喉の渇きを感じる前に、こまめに水分を摂ることが大切。
「外で活動して汗をかいた後は、スポーツドリンクがおすすめです。汗で失われたナトリウムやカリウムなどの電解質を補い、糖分が腸管内の水分吸収も促します。デスクワークなど室内にいることが多い人は、水やお茶でも大丈夫。外から冷房の効いた場所に移動すると喉の渇きを感じにくいので、意識的に水分補給を行いましょう」
屋外での運動は脱水や熱中症を防ぐために日中は避け、室内での運動も取り入れよう。腸活に効くのは腹筋運動。
「便を押し出す腹筋は年を重ねるほど衰えやすく、鍛えることを推奨します。運動が得意でない人は、掃除や洗濯ものを干すときなどに意識して腕を伸ばすなど、家事の動作を大きくするだけでもいい運動に。吐く呼吸をしっかり行うことでも自律神経が整います」
食事面では小麦由来の主食は極力控え、消化にいい米を積極的に摂りたい。
「小麦などの穀物に含まれるグルテンは、消化されにくいタンパク質。腸の粘膜にはりついて腸の働きを下げてしまうこともあるのです。麺類ではそうめん、うどんは消化される時間が早いですが、油分を多く含むパスタや中華麺は消化されにくい。主食は白米や玄米などをベースにするのが理想です」
冷房で体を冷やさない。
古川さん曰く、体の冷えは間違いなく腸の機能を落とすという。暑い場所から冷房がキンキンに効いた室内に入ったときや長時間体が冷えた状態が続いたときなどに、腸が収縮して痛みが出ることも。温度を自由に調整できない環境にいるときは、上着やブランケットを使って体を冷やさない工夫を。
「特に下半身を冷やさないようにして、足首やひざをしっかり温めることで、血流が上がってむくみも改善します。長時間冷房の効いた部屋にいるときは、腰をカイロで温めるのもおすすめです。夜は入浴で体を温めましょう」
ただ、ホットフラッシュの症状が出たときは例外。体が心地よく感じる涼しさをキープするとよい。
「首や脇の下を濡れたタオルなどで冷やすとラクになります。症状が落ち着いたらホットフラッシュの汗で体が冷えないように、着替えを準備しておくと安心です」
低フォドマップを意識してみる。
フォドマップとは、小腸で吸収されにくく大腸で発酵しやすい糖質の総称。ラーメンや加工肉などフォドマップを多く含む食品は、膨満感や腹痛、下痢を引き起こしやすいといわれている。
「便秘や下痢などが続く過敏性腸症候群の患者さんで整腸剤が効かなかった人が、高フォドマップの食品を控えた生活にして改善されたケースも。ひとつのアプローチとして参考にしてみてもいいと思います」
お腹の調子に悪影響するフォドマップの種類や量は個人差があるとされ、高フォドマップ食のすべてが腸に負担をかけるわけではないという。
「更年期世代は女性ホルモンの乱れから、体質に合う食品が変わってくることも多いです。これまで好きで問題なく食べていた食品が実は不調の原因になっていることもあり、何を食べたときに調子を崩しやすいか、注意して見極めていくことが必要です」
\小腸をいたわる/(低)フォドマップ
●野菜
なす│ピーマン│大根│キャベツ│ほうれん草
●穀類
白米│玄米│オートミール│そば(十割)
●乳製品
バター│パルメザンチーズ│カマンベールチーズ
●果物
バナナ│いちご│キウイ│オレンジ│レモン
●肉・魚
肉類全般│魚介類全般│卵
●調味料
ソース│酢│みそ│カレー粉│唐辛子
(高)フォドマップ
●野菜
玉ねぎ│にんにく│キムチ│ごぼう│豆類
●穀類
小麦│大麦│パスタ│ラーメン│パン
●乳製品
牛乳│ヨーグルト│プロセスチーズ
●果物
グレープフルーツ│マンゴー│梨│すいか
●肉・魚
魚の缶詰│加工肉
●調味料
オリゴ糖│キシリトール│はちみつ
『クロワッサン』1118号より
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