「和菓子と着物は似ていますよね。受け継いでいきたい大切な文化です。」スイーツジャーナリスト・平岩理緒さんの着物の時間。
撮影・青木和義 ヘア&メイク・桂木紗都美 着付け・石山美津江 文・大澤はつ江
自分で組んだ帯締めです。紫がさし色になり、引き締まりました。
水色の色無地に金糸、銀糸を織り込んだ袋帯。爽やかな初夏を彷彿とさせる装いの平岩理緒さん。さし色にした帯締めの紫が全体を引き締める。
「この帯締め、実は自分で組んだんです。数年前に『組紐』の体験会があり参加したところ、2時間ほどでできました。小紋などカジュアルな着物のときに締めたいな、と思っていたのですが、思い出のある品なので、今回、あえて袋帯に合わせてみました。王道ではないかもしれませんが、自作の品を身に着けるのはうれしいですね」
平岩さんが着物に興味を持ち始めたのは子どものころ。母方の祖父母が仕舞(しまい)(能の特定の一部を面や装束をつけずに舞う)を習っていたことにある。
「母の実家は熊本で、よく一緒に帰省していました。2階には祖父母の稽古場があり、先生が出稽古で来ていて。その影響と、もともと歴史が好きで、日本の伝統文化にも興味がありました。高校時代、学校で受講したのがきっかけで、4~5年ほど篠笛を習ったり」
そして、大学時代は観世流の能楽研究サークルに入り、仕舞を学び始める。
「お稽古はもちろんですが、舞台に立つときは自分で着付けなければなりません。先輩の着付けを見よう見まねで覚え、とにかく袴をつけるのに必死でした。きれいに着ることなど頭になくて、なにしろ早く着ることに専念していたように思います」
袴をつけるので、半幅帯を文庫に結べばいいのだが、
「思うようにはいかず……。でも、おかげさまで、半幅を結ぶ浴衣ならさっと自分で着られるように」
その後、社会人となり、能の稽古からは遠ざかってしまったが、伝統文化への興味は持ち続けていた。
「マーケティング会社を退社後、製菓学校で菓子の基礎知識を勉強しました。卒業後、スイーツジャーナリストとして各地の伝統菓子、老舗の銘菓や新製品の紹介もすることに。和菓子についても取材の機会が増え、深く知るにはお茶は切り離せないと思い、遅ればせながら2019年から裏千家に入門して学んでいます。お茶を始めたことで、主役の抹茶を引き立てる上品な甘味、茶席で供するからこその配慮など、より味わうようになりました」
そして、着物を着る機会も増えた。
「お茶会に自分で着物を着て出席できるようになりたいと思ったのも、お茶を習うきっかけでした。家には母や祖母の着物が箪笥の肥やしになっていて、これを誰かが着なければ、と思い……。着付けも習い始めたので、練習を兼ね、お茶会や食事会などには着ていくようにしています」
日々、菓子情報を収集し発信する平岩さんだが、取り組んでいることがある。
「伝統行事にだけ食される菓子や、各地に伝わる郷土菓子を掘り起こし紹介しています。菓子を食べることで『無病息災』を願ったり、豊穣を祝ったりと、人々の暮らしに欠かせないものなんですよ」
そんな平岩さんが、最近気がついたことがあるという。
「和菓子と着物は共通することが多いなと。着物は各地方に伝わる織りや染めの技法が守られ受け継がれている。和菓子も地元ならではの素材や水を使い、風土に合ったものが作られています。どちらも伝統を継承することが大切ですし、そのうえでの新しい挑戦も意義があります。私が着物について諸先輩方に教えていただいているように、菓子作りも血縁にこだわらず継承してほしい。菓子に関わる方々の思いを引き継ぎ、次世代に繋げていきたいと思っています」
『クロワッサン』1118号より
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