疲労回復や生活習慣病の改善に、酢の健康効果と賢い摂り方、活用のヒント【発酵食大図鑑】
酸っぱさが腸に効く。おいしい酢で体を整える。
撮影・青木和義、黒川ひろみ 文・韮澤恵理
酢酸が暮らしにもたらす健康とおいしさのW効果。
米や穀物を麹菌や酵母の力で酒にし、そこに酢酸菌を加えると、アルコールが酢酸に分解されます。これが酢です。
酢酸は食べたものを長く胃にとどまらせ、小腸への移動もゆるやかにさせるので、急激な血糖値の上昇を抑え、高血糖や肥満の改善につながります。
また、糖がエネルギーになるのを助け、内臓脂肪として蓄積されるのを抑えてくれます。こうしたことからメタボや生活習慣病が気になる世代の健康を支える発酵食品として、注目を集めています。すばやくエネルギーに変わるので疲労回復にも役立ちます。
また、強い酸性で、雑菌が繁殖しにくく、食物の保存性を高めてくれるから、昔から洋の東西を問わず、酢漬けや酢締めが保存食として活躍しています。塩分の力を借りなくてもいいのが健康面では一番のメリットでしょう。
酢は、原料が穀物の酢と果実の酢に大別されます。日本の酢は、米や穀物が原料。穀物のでんぷんは、そのままでは酵母に分解できません。そこで麹菌の力を借りてまず酒を作り、さらに酢酸菌を使って酢にします。
西洋で発達した果実の酢は、果汁の糖分が自然に発酵し、酢酸菌が加わって酢になります。
日本の酢の主流は、麦、米、とうもろこしなどの穀類を使った穀物酢や米酢です。最も一般的な穀物酢はクセがなく使いやすいのが特徴です。いずれも炭水化物とたんぱく質の両方を発酵させているので、アミノ酸による独特の旨みがあります。
好みや目的、あるいは食材との相性で選ぶと、よりよい「お酢生活」になります。
(注目の健康効果)
●酢酸が腸内を元気に
主成分である酢酸は腸内細菌が腸の中で作るものと同じ成分です。酢を摂ることで食事からも酢酸を補え、腸内を弱酸性に保ち、善玉菌が住みやすく悪玉菌を暮らしにくくする。
●生活習慣病を改善
酢を毎日適量摂っている人は、中性脂肪値、血糖値、血圧などが改善されるというデータがある。
●酸味と旨みが減塩に
アミノ酸の旨みと、酢の香りや酸味で、塩分を減らしてもおいしく食事ができる。
【酢のつくられ方】
(A)蒸した米に水と麹菌を加え、麹の分解力で米を発酵させる。
(B)酵母を加え、アルコール発酵させる。
(C)アルコールを分解して酸に変える働きをする。
(D)加熱で、酢酸菌の働きは止まり、殺菌されて製品が安定。
(E)酢酸菌が生み出した健康効果のある酢酸で、酸味が生まれる。アミノ酸も含まれ、旨みを感じる。
[米酢]
穀物酢の一種で、一定以上の米を使っていると米酢を名乗ることができる。米100%なら「純米酢」。酸味が強く、コクや風味が強いので、寿司をはじめ、和食向きの酢。
[黒酢]
一般的な黒酢は玄米を原料にし、長期熟成してつくる。アミノ酸の含有量が一般の酢の10倍ほどで、旨みが強く、健康効果も高い。屋外に並べた壺を使って地熱で発酵させる壺酢も有名。
(賢い摂り方)
● 1日大さじ1を毎日
酢の健康効果を調べた研究では、1日大さじ1(15ml)を毎日摂っていると、血糖値の正常化や高血圧の改善、血中コレステロール値、中性脂肪値、内臓脂肪量の低下が認められています。まとめて大量に摂っても効果が高まるわけではありません。
酢は熱に強いので、加熱しても大丈夫。ただし、油と一緒に長く炒めたりすると揮発してしまいます。
そのまま飲むと胃を荒らすことがあるため、料理に使うか、水や炭酸で割ってドリンクにしましょう。ブルーベリー酢、ざくろ酢などフルーツの名がつくドリンク用の酢は、果汁に酢をプラスしたものです。
[ワインビネガー]
ぶどうの果汁にワイン酵母を加えてワインをつくり、できたワインに酢酸菌を加えてさらに発酵したもの。白ワインビネガーと赤ワインビネガーがある。
[りんご酢]
りんご果汁を酵母によって発酵させ、アルコールとなったのがシードル(りんご酒)。さらに酢酸発酵させるとりんご酢に。フルーティーな香りでまろやかな味。お酢ドリンクに向く。
[バルサミコ酢]
ワインビネガーの仲間だが、煮詰めて濃縮したぶどう果汁が原料で、木樽で長期間発酵熟成してつくる。濃い褐色で甘味と香りが強い。手間も時間もかかるので高価。
(気をつけたいこと)
酸は歯を弱くします。酸っぱい料理やお酢ドリンクを飲んだあとはうがいをする習慣を。
「酢」と名がついても、もろ味酢は酢酸発酵していません。ポン酢は柑橘類の果汁、梅酢は梅干しづくりの副産物です。
(おすすめ献立)
海藻や魚介類の酢の物にすると、食物繊維や魚の有効成分が上手に摂れます。酢には魚の生臭さを抑える働きがあるので、酢締めなどもおすすめ。サラダを酢と塩、オリーブ油で食べれば、良質な酢で野菜をたっぷり食べられます。野菜炒めやあんかけに酢をかけたり、酸辣湯のような汁物にしても。
(麹の種類も多彩)
酢に塩や醤油、砂糖を加え、味のバランスを整えたのが合わせ酢。酢に砂糖と塩を加えた甘酢、酢と醤油を合わせた二杯酢、酢と醤油、砂糖(みりん)を合わせた三杯酢などがおなじみです。調理のたびに調味料を量って、溶かしたり混ぜたりするのは意外に手間です。まとめて手作りして保存瓶に入れ、冷蔵庫にストックしておくと便利です。
自分好みの配分を決めて常備してみては。酢の物や寿司だけでなく、酢煮やたれにもなり、酢の使いみちが広がります。
cooking memo|小腹が減ったら酢昆布で+海藻効果
乾燥昆布を一口大に切って保存容器に入れ、酢を注ぐだけ。昆布が柔らかくなったら酢昆布のようにおやつに。昆布を食べ切ったら、残った酢にはだしがたっぷり溶け出しているので、酢の物などに活用を!
Cooking idea|煎り豆で酢大豆!
保存容器に市販の煎り大豆(節分の豆など)を入れ、大豆がひたる程度の酢を注ぎ入れる。2〜3日で大豆に酢が染みたらできあがり。1日に数粒を目安におやつがわりに食べるのがおすすめ。酢の種類は好みで。十分に酢を吸って柔らかくなった酢大豆を料理に加えるのもいい。
(右)煎り大豆は市販品が手軽。スーパーなどで手に入る。
(左)穀物酢や米酢を使うと大豆の味が生きる。黒酢もおいしい。
\完成/
ふっくら柔らかくなったらそのまま食べられる。
『Dr.クロワッサン 強い腸をつくる、発酵食の摂り方大百科。』(2021年2月18日発行)より。