知っていますか? 発酵に関わる微生物の得意技。発酵食が体に良い理由を東京農業大学に聞きました。
どちらもよく聞く名前ですが、どんな働きが体を整えるのか知っていますか?
発酵食と食物繊維それぞれの働きと、相互関係を東京農業大学の石川森夫さんと野本康二さんにわかりやすく教わりました。
撮影・黒川ひろみ 文・韮澤恵理
発酵食を作るのは微生物たちの生命活動。
発酵とは、微生物が食材に働きかけて、役立つものに変えることです。逆に悪い影響を及ぼすのが腐敗で、この2つは実は同じメカニズム。違うのは人にとって「益」か「害」かという点だけです。
発酵食というと、菌が腸に届いて活躍することばかり思い浮かびますが、実はそれは発酵食のメリットのごく一部です。
発酵食を作る微生物にはいろいろな種類があります。大きく分けると、細菌(バクテリア)、酵母(イースト)、カビの3つで、それがさらに細分化されます。
細菌では、乳酸菌、ビフィズス菌、納豆菌、酢酸菌などが発酵に関わります。健康維持に重要な酪酸菌も覚えておきましょう。
酵母は、主に花や果物に生息し、糖をアルコールと二酸化炭素に変えます。酒酵母、ビール酵母、パン酵母などがこの仲間です。
カビは糸状菌とも呼ばれ、柄と胞子の部分がある形が特徴。麹菌は実はカビの一種。無害なカビを旨みや栄養の増加に役立てているのがチーズやかつお節です。
腸内細菌を応援し、有効成分が体に働く。
発酵食が体にいい理由は大きく分けて2つ。
1つは菌が腸に届いて健康に役立つ働きをすることです。
乳酸菌やビフィズス菌のように腸内細菌と同じ仲間は、もともとすんでいる菌を応援します。特に生きたまま腸に届く菌(プロバイオティクス)は常在の腸内細菌と一緒に働き、腸活に貢献します。死んだ菌も食物繊維と同様に、腸を刺激したり、調子をよくします。
さらに、麹菌や納豆菌といった、腸内細菌とは違う種類の菌も、善玉菌の活動を助ける物質を作り、腸内環境を整えます。
さらに、微生物の死骸は体にとっては異物なので、免疫反応の準備運動にもなります。
もう1つの健康効果は発酵に伴って体にいい成分が作られること。たとえば発酵食にはビタミンB群が豊富なものが多く、エネルギー代謝を助けます。納豆にはビタミンKが多いこともわかっています。
発酵で生まれる特徴的な成分が酵素。物質の変化を手助けするたんぱく質で、消化酵素と代謝酵素に大別されます。食べて役立つのは消化酵素。他の酵素が健康にかかわるかはよくわかっていません。
消化酵素によってたんぱく質はアミノ酸に、でんぷんは糖に変わるので、旨みや甘味が生まれ、吸収もよくなります。
酸味がある発酵食は、菌が乳酸や酢酸を作るためで、腸を弱酸性に保ち、善玉菌が生きやすく、悪玉菌が増えにくい環境を作ります。
また、納豆のネバネバは発酵によって生まれた食物繊維で、腸内細菌のエサになります。
発酵食といっても微生物もその働きも多様です。それぞれをよく知れば、うまく活用できます。
●発酵食が体にいいのは
【腸の調子を整える】
(菌)ビフィズス菌
主に酸素のない大腸内で活動。食物繊維などをエサにして、乳酸と酢酸を作り、酢酸菌は悪玉菌を攻撃。
(菌)乳酸菌
空気中やさまざまな動植物にすんでいて、酸素がない腸内でも元気に活動。乳酸を作り、ビフィズス菌の働きを助ける。
(菌)酪酸菌
腸内を善玉菌のすみやすい弱酸性の環境にしたり、腸粘膜を健康にする。食事からはほとんど摂れない。
【旨みや栄養を増やす】
(カビ)白カビ、青カビ
白カビや青カビがたんぱく質や脂質を分解して旨みを生む。ビタミンやミネラルも増やす。
【消化や吸収を助ける】
(カビ)麹菌
酢、味噌、醤油などの日本の発酵食に欠かせない。糖を分解して消化酵素を作る。善玉菌のエサにも。
(酵母)酵母
花や果物に自然に生息する。糖をアルコールと二酸化炭素に変え、ビタミンやアミノ酸も増やす。
【食物繊維を大量に作る】
(菌)納豆菌
大豆のたんぱく質をアミノ酸に分解。ネバネバは人が消化できない食物繊維の一種で善玉菌のエサにもなる。
(菌)酢酸菌
アルコールを酢酸に変える。発酵するときにセルロースという食物繊維の塊を作る。これがナタデココやコンブチャ。
●連携プレーが生む健康発酵食
発酵食は単一の微生物から作られるものもありますが、数種類の微生物がリレーのように効果やおいしさを増すものも多く、まさに先人の知恵と工夫の賜物です。
伝統漬け物
(乳酸菌)+(酵母)
野菜についている乳酸菌が、塩で下漬けして上がってきた水分の中で繁殖。樽や環境にすみつく酵母の力も借りて、発酵をすすめる。乳酸菌が生み出す乳酸が蓄積し、徐々に酸味が増していく。好みの漬け加減で食べる。
味噌、醤油
(麹)+(酵母)+(乳酸菌)
蒸した大豆を麹で発酵させる典型的な日本の発酵調味料。米麹、豆麹、麦麹など、麹の種類で味わいが異なる。材料の大豆と水の量、蔵や樽にすむ酵母などの力も借りて、味噌の個性が決まっていた時代も。
ヨーグルト・乳酸飲料
(乳酸菌)+(ビフィズス菌)
乳に含まれる乳糖をエサにした乳酸菌が増え、できた乳酸がたんぱく質を固めるのが発酵乳。腸にいいビフィズス菌を加えたものも。生きた菌(プロバイオティクス)の力と、死んでしまった菌とがダブルで働く。
ぬか漬け
(乳酸菌)+(酵母)+(酪酸菌)
ぬか床には表面に酸素を好む酵母がいて、中間層には乳酸菌が繁殖して漬けた野菜などに染み込む。容器の底部には空気が嫌いな酪酸菌が住み、この3つの菌がバランスをとっておいしさや利用を作り出している。
キムチ
(乳酸菌)+(酵母)
塩で下漬けした野菜の乳酸菌を利用し、ヤンニョムに含まれるアミの塩辛や魚醤の微生物も働いて、複雑な味わいを生む韓国の発酵食。一般的な辛いキムチには唐辛子の辛味成分や色素成分の手助けも。
酢
(麹)+(酵母)+(酢酸菌)
日本の酢は米を麹で糖化させ、同時に酵母でアルコールに変えるという合わせ技。そのアルコールを、さらに酢酸菌の力で酸に変え、強い酸味と香りを生み出す。果糖を酵母で発酵させて、酢酸発酵に進むのがワインビネガー。
チーズ
(乳酸菌)+(カビ)
乳のたんぱく質を乳酸菌が作る酸で固め、まとめたものがチーズ。白カビや青カビを付着させてさらに熟成を進めたり、時間とともに分解されてうまみや栄養が増えたものがハード系のチーズ。乳に比べて栄養素が増えている。
『Dr.クロワッサン 強い腸をつくる、発酵食の摂り方大百科。』(2021年2月18日発行)より。
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