庭師、俳優・村雨辰剛さんの着物の時間、「『好き』が自分を動かしてきました。何事にも好奇心を失いたくないですね。」
撮影・黒川ひろみ ヘア&メイク・深山健太郎 着付け・小田桐はるみ 文・大澤はつ江 撮影協力・シェラトン都ホテル東京
銀座の柳で染めた大島紬です。しなやかで着心地がすばらしい。
日本文化をこよなく愛し、26歳のときに日本国籍を取得した村雨辰剛(たつまさ)さん。庭師として、設計、施工、管理(手入れ)を行う一方、近年は俳優としても注目を集めている。
「庭師の仕事は施主との絆が大切です。どんな庭にしたいのかを話し合いながら、樹木や石の自然な形が生きるように配置していく。ベストな位置はどこかを探り、作り上げる作業は大変ですが、やりがいがあります。俳優の仕事も、演じる人物の心をどう表現するかが大事です。僕の中では、庭師も俳優も表現することにおいて同じように思います」
学生時代に世界史の授業で日本のことを学び興味を持ち、もっと深く知りたいと、独学で日本語の勉強を始めた村雨さん。
「日本に行って日本語で話をしたい、その思いで辞書を片手に、ひたすら単語を覚えました。日本に行きたいと思っても、なかなか高校生を受け入れてくれる先はなかった」
そんなとき偶然、知り合った人が3カ月間のホームステイをさせてくれることに。
「本当は学校生活もしてみたかったんですが、それはかなわず、でも部活には参加してみたくて……。ホームステイ先から行ける学校でアメフト部があるところをネットで探し、許可してもらいました。あきらめなければきっと願いはかなう。このときに、人との出会いが大切であることを学びました」
その後、帰国し、19歳のときに再来日する。
「日本に根をおろして暮らしたい。日本文化に触れる仕事がしたい、という思いが強くなり、23歳の時に造園業の仕事を見つけました。見習いのゼロからのスタートです。5年間修業をし、独立して今に至るわけです」
日本国籍を取得した際に作ったのが、村雨家の家紋だ。
「ひとりの日本人になったのだから、家の紋を作りたい、と思ったんです。それに庭師の仕事着の“印半纏(しるしばんてん)”には、背中に家紋を入れるのが習わしでしたから。母はスウェーデンの貴族の出で紋章を持っていたので、その一部と、松が好きなので『三つ追い組松葉』を組み合わせた丸紋を考えました」
実は今回の着物にもこの家紋が入っている。
「着物は大好きです。以前に『銀座 もとじ』の2代目泉二啓太(もとじ)さんと日本の文化などについて対談した際に、いつかはちゃんとした自分の着物を作りたい、と話したところ、“それならば”と誂えてくださったものです。奄美大島紬なのですが、染めは泉二さんが長年取り組んでいらっしゃる『銀座の柳染め』。剪定(せんてい)したあとの枝葉から抽出した染料を使っています。落とした枝葉を無駄にしない『もったいない』精神で作られた着物はSDGsにもピッタリですね」
その大島紬をキリリと着こなした村雨さん。しなやかに、そして芯のある生き方が伝わってくるようだ。
「日本で暮らし始めたころ、着物を着たいと思っていても、どこに買いに行けばいいのかわからず、一番最初は甚平(じんべい)を着ました。次に購入した浴衣は、丈がちょっと短めでした(笑)。それをネットを見ながら、見よう見まねで着付けて出かけたのもいい思い出です」
着物の魅力はカジュアルからフォーマルまで表現できることだと村雨さん。
「今日は“着流し”でカジュアルにしてみましたが、羽織をつければちょっとしたイベントや食事会などにも出席できます。今後は知識だけでなく、所作をもっと勉強したいと思っています。着物好きの外国人が着ているような感じにならないようにしたいんです」
『クロワッサン』1103号より
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