暮らしに役立つ、知恵がある。

 

荷物の持ち方、転倒予防など、腰を守る「正しい歩き方」

すべらない、つまずかない、よろめかない正しい歩き方。

文・山下孝子 イラストレーション・松元まり子

高齢者にとっては小股で歩く方が吉!

「正しい姿勢」で歩くことは、腹筋、背筋、大臀筋、さらにその他の足腰の筋肉も鍛えられるため、腰痛の予防に非常に効果的です。

運動としてウォーキングを紹介する本、特にダイエットを目的とするものの多くで、「大股で、腕を振り、速く歩く」ことを推奨しています。ところが、健康維持を目的とするウォーキングにおいては、むしろ「小股で、腕を振らず、ゆっくり歩く」ほうが適切なのです。

その理由は、歩く際の重心移動と、歩くという動作で主に使われる大臀筋、大内転筋(太ももの内側の筋肉)、ヒラメ筋(ふくらはぎの筋肉)、多裂筋(背中の筋肉)の4種類の筋肉の働きが関係します。

人間の重心は骨盤を構成している仙骨のやや前方にあります。歩く動作で一方の足はこの重心を「支持」する役割を、もう一方の足は重心を前方に「推進」させる役割を担っていますが、大股で歩くと、重心の位置が着地した足(推進役)から離れてしまうため、次の足を前に繰り出す(支持役だった足が推進役に交代する)ときに、どうしても重心移動が難しくなってしまうのです。

また、大股で歩くときに使われる筋肉には、瞬発力はあるけれど疲れやすい「速筋」の割合が多くなります。一方、大臀筋、大内転筋、ヒラメ筋、多裂筋はゆっくりと収縮して持久力があるので疲れにくい「遅筋」の割合が多いため、小股のほうが長い時間歩くことができるのです。

なお、大臀筋は年齢を重ねることで衰える筋肉ですが、女性は男性よりもそれが早く、55歳ぐらいから大臀筋の筋力低下が始まるとされています。

大臀筋の衰えは姿勢悪化を招いて腰痛を引き起こすだけでなく、膝関節や股関節にも悪影響を及ぼしますので、できるだけ毎日歩くように心がけ、年齢による大臀筋の衰えを最小限に留めましょう。

中高年の場合は、1日の合計歩数が5000~6000歩が目安となっています。

【歩く】この生活動作が腰を守る

「正しい姿勢」で歩くポイント

(A)顎を引く (B)膝を伸ばす(膝を曲げると大内転筋が使われない) (C)靴は足の甲が覆われている…

(A)顎を引く

(B)膝を伸ばす(膝を曲げると大内転筋が使われない)

(C)靴は足の甲が覆われているデザインが理想的

(D)肩の力を抜く

(E)腕の振りは自然にまかせる(無理に振る必要はない)

(F)歩幅は小股速度はゆっくり

(G)肩足の裏の重心移動の順番を守る

歩く時の荷物の持ち方

荷物の持ち方、転倒予防など、腰を守る「正しい歩き方」

●ショルダーバッグを斜めがけ
肩にかけるだけだと、荷物を片側の手だけで持つ場合と同じく左右のバランスが崩れるうえ、重心が偏って腰のゆがみにつながってしまいます。一方、斜めがけにすると重さが分散できるうえ、比較的両手が自由になるため、つまずいたときに何かにつかまることができます。

荷物の持ち方、転倒予防など、腰を守る「正しい歩き方」

●リュックサックで背負う
リュックサックは左右のバランスがよく、腰への負担が少ないため特に重い荷物を持つ時に最適です。筋力の低下ですり足になりがちな高齢者にとって、両手が自由になるため、つまずいたときに何かにつかまって転倒を防ぐことができる点も大きなメリットといえるでしょう。

荷物の持ち方、転倒予防など、腰を守る「正しい歩き方」

●両手に分散
片側の手だけで荷物を持つと、両手に分散して持つ場合の約3倍の負担が腰にかかります。また、いつも同じ側の手で荷物を持っていると、左右の筋肉のバランスが崩れ、腰痛が起きやすくなります。左右に分散する荷物の重さが、できるだけ均等になるように注意しましょう。

【転倒予防の3原則】

骨がもろくなる高齢者にとって、転倒は骨折の危険が高くなります。歩くときの転倒予防のポイントを紹介します。

(1)すべらない
靴底をすべりにくいものにする。ただし、筋力の低下によってすり足で歩いている場合は、すべり止めの効果が高すぎると踏み出すときにつまずきやすくなるので注意が必要。

(2)つまずかない
靴の先端部分を少し持ち上げることを意識して歩く。ただし、一般的な靴は先端部分が床から少し浮いているので、あまり高く持ち上げるとバランスを崩しやすくなる。

(3)よろめかない
できるだけ自分の足にジャストサイズで、足の甲を覆い、かかとをしっかりと包み込む靴を履く。特に横幅に余裕があり、靴の中で足が横方向に遊んでしまうものはNG。

【足の裏の重心移動の順番】

(1)かかとで着地して、足裏の外側に移動
(2) 足裏の外側から小指の付け根に移動
(3)小指の付け根から親指の付け根に移動
(4) 最後に親指で地面を蹴る

実際に歩くときは(1)~(4)の流れを1秒弱で行うのが理想的です。この重心移動の順番を守ることで、土…

実際に歩くときは(1)~(4)の流れを1秒弱で行うのが理想的です。この重心移動の順番を守ることで、土踏まずに代表される足裏のアーチが維持され、足裏にある運動刺激を脳に伝えるセンサーの働きもスムーズになり、転倒しづらくなります。

  • 伊藤晴夫

    監修

    伊藤晴夫 さん (いとう・はるお)

    整形外科医

    メディカルガーデン整形外科院長。JCHO東京新宿メディカルセンター(旧東京厚生年金病院)元副院長・整形外科部長。岐阜大学医学部卒業。腰痛疾患や股関節疾患の臨床に長年携わり、一流アスリートの治療にもあたっている。『腰痛の運動・生活ガイド』(日本医事新報社)、『腰痛をすっきり治すコツがわかる本』(永岡書店)など、腰痛関連の著書・監修書多数。

    ※プロフィールは雑誌掲載時の情報です。

『Dr.クロワッサン 脊柱管狭窄症、骨粗しょう症、ぎっくり腰もスッキリ! 腰痛の新常識』(2020年8月27日発行)より。

  1. HOME
  2. からだ
  3. 荷物の持ち方、転倒予防など、腰を守る「正しい歩き方」

人気ランキング

  • 最 新
  • 週 間
  • 月 間

注目の記事

編集部のイチオシ!

オススメの連載