からだ

基本なのに実は難しい、腰を守る「正しい姿勢」。

この生活動作が腰を守ります。
  • 文・山下孝子 イラストレーション・松元まり子

背筋を伸ばそうとして無理をしてしまうことも

人間は「正しい姿勢」で立っていても、腰に体重と同じ力が加わっているため、姿勢の崩れが大きいほど腰にかかる負担が増え、腰痛を引き起こす要因となります。

しかし、年齢を重ねると自然と筋肉が衰えて運動量も減るため、腹筋、背筋、大臀筋(だいでんきん)(お尻の筋肉)の3種類の筋肉が衰えてしまい、「正しい姿勢」を保つことが難しくなってしまいます。

ただし、最近「悪い姿勢」の原因として多くなっているのが、背筋の中で一番内側に存在している多裂筋の衰えです。多裂筋は頸椎(けいつい)から腰椎にかけて骨のひとつひとつに繋がっている小さな筋肉で、わずかに動くだけですが、吊り橋のケーブルのように背骨を支えています。

例えば、代表的な「悪い姿勢」である「猫背」は、上半身が前に傾いて背中が丸まっています。そのせいで腹筋が衰え、腹筋の拮抗(きっこう)筋(反対の動きをする筋肉)である腰の多裂筋も使われなくなってしまうため、ますます姿勢が悪くなってしまうのです。

昔は雑巾がけをすることで多裂筋を自然と鍛えていましたが、最近はそうした機会も減ってしまいました。そのため、体操で衰えた多裂筋を鍛え直すことで、「正しい姿勢」を取り戻しやすくなります。

なお、最近では土踏まずに代表される足の裏のアーチの崩れも姿勢悪化の原因と考えられていますが、足の裏のアーチを維持する(扁平(へんぺい)足の場合はアーチを取り戻す)ためには歩くことが大切です。そのため、まずはすべての動作の基本である「正しい姿勢」で立つことを身につけましょう。

「正しい姿勢」で立つためには、下で示したさまざまな条件を満たす必要がありますが、なかでも「大臀筋を意識して肛門をしめる」を特に心がけると、よい立ち方ができるようになります。

【立つ】この生活動作が腰を守る

「正しい姿勢」で立つポイント

(01)耳の後ろ、肩の先端、腰回りの中央、膝の皿の後ろ、足のくるぶしが一直線上に並ぶようにしましょう。
(02)体が左右に傾かないようにする

(A)顎を引く

(B)下腹部に力を入れる

(C)肩の力を抜く

(D)大臀筋を意識して肛門をしめる

代表的な「悪い姿勢」

●反り腰(反らしすぎ)
女性に多い姿勢で、胸を張っているためよい姿勢に見えますが、大臀筋が衰えた結果、「腹突き出し」と同じく骨盤が後ろに傾いてしまい、バランスを取るために上半身が後ろに傾いて腰が反っています。姿勢を矯正し腰の負担を軽くするには、大臀筋を鍛え直す必要があります。

●腹突き出し
お腹回りに脂肪がたまってしまったいわゆる「メタボ体型」の人に多い姿勢で、お腹が出ているために骨盤が前に傾いてしまい、バランスを取るために上半身が後ろに傾き、腰に負担がかかります。まず体重を減らし、骨盤の傾きを元に戻すために衰えた大臀筋を鍛え直す必要があります。

●猫背
もともとやせた体型の人に多い姿勢でしたが、手元にあるスマートフォンの画面をのぞき込むため、最近数が増えています。背中が丸まって前かがみになっているせいで骨盤が後ろに傾き、腰に負担がかかります。さらに顔が前に出て、膝が曲がりやすくなる傾向があります。

●電車やバスの中で吊り革はNG

電車やバスなどの公共交通を利用する場合、必ず座れるとは限りません。立って乗車する場合、急ブレーキや激しい揺れで転倒しないように吊り革や手すりにつかまりますが、できるだけ手すりにつかまったほうがよいでしょう。最近は長い吊り革も増えていますが、日本人の平均身長が伸びていることもあり、昔よりも高めの位置に設置されています。そのため、背が高くない人が吊り革につかまると、背伸びをするせいで自然と腰が反ってしまい、腰に負担がかかってしまいます。高齢の女性は特に小柄な方が多いので、無理をせず手すりにつかまるようにしましょう。

伊藤晴夫

監修

伊藤晴夫 さん (いとう・はるお)

整形外科医

メディカルガーデン整形外科院長。JCHO東京新宿メディカルセンター(旧東京厚生年金病院)元副院長・整形外科部長。岐阜大学医学部卒業。腰痛疾患や股関節疾患の臨床に長年携わり、一流アスリートの治療にもあたっている。『腰痛の運動・生活ガイド』(日本医事新報社)、『腰痛をすっきり治すコツがわかる本』(永岡書店)など、腰痛関連の著書・監修書多数。

※プロフィールは雑誌掲載時の情報です。

『Dr.クロワッサン 脊柱管狭窄症、骨粗しょう症、ぎっくり腰もスッキリ! 腰痛の新常識』(2020年8月27日発行)より。

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