ぎっくり腰はなぜ起きる? 起こした直後の対処法や痛みのケア。
文◦山下孝子 イラスト◦松元まり子
【明確な原因が不明の腰痛(さまざまな要因が積み重なり起きる腰痛)】
ぎっくり腰(ぎっくりごし)
一定期間、鈍い痛みを感じる慢性腰痛に対して、突然、動けなくなるほど激しい痛みが腰に走るぎっくり腰は、その特徴から「急性腰痛症」と呼ばれています。
実は、ぎっくり腰が起こるメカニズムはいまだにはっきりわかっていません。腰回りの筋肉が急に収縮してしまう筋肉のトラブルによって起きる、腰椎の椎間板、椎間関節、仙腸関節(骨盤を形成している仙骨と腸骨の間にある関節)などがねんざすることで起きるなど、さまざまな原因が考えられますが、レントゲンやMRIなどで異常を確認・特定が難しいため、ぎっくり腰も非特異的腰痛に含まれるのです。
原因特定は困難ですが、ぎっくり腰は前かがみになって重い荷物を持ち上げた時や、急に姿勢を変えた時など、日常の何気ない動作をきっかけにして起こります。特に中高年は加齢で腰椎の椎間板の弾力が落ち、変形が始まっているため、くしゃみや咳などのちょっとした衝撃でぎっくり腰が起きやすくなっています。
ぎっくり腰はあまりに痛いため、かつては痛みが完全に治まるまで安静にしていなければならないと考えられていました。しかし、若年層よりも筋力が低下した中高年層のほうがぎっくり腰が起きやすいことから、最近は2~3日安静にしてある程度痛みが弱まったら、多少の痛みを我慢してでも積極的に体を動かして、筋力の低下を予防するほうが、早期の回復につながることがぎっくり腰の常識となっています。
ただし、ぎっくり腰は一度経験すると、再発しやすい傾向があり、経験者の約4分の1が1年以内にぎっくり腰が再発しています。再発を予防するためには、適度な運動を続けて筋力を維持したうえで、前かがみや中腰など腰に負担がかかる姿勢を避ける必要があります。
なお、ぎっくり腰の激しい痛みは安静時に起きることはありません。そのため、楽な姿勢で寝ていても腰が激しく痛む場合は、ぎっくり腰ではなく、内臓の病気の症状である可能性が高くなるので要注意です。
【痛ぎっくり腰を起こしやすい動作ベスト5】
(1)重いものを持ち上げる
(2)中腰の姿勢をとり続ける
(3)腰を急にねじる
(4)準備運動なしで急に体を動かす
(5)くしゃみや咳をする
【重い物を持ち上げるときのポイント】
●ポイント 1
重い物を持ち上げる場合は、その荷物のそばでしゃがみ、荷物を持ったらまっすぐ立ち上がると、腰への負担が比較的軽くなります。
●ポイント 2
立った状態で上半身を前に20度傾けると、腰には正しい姿勢で立つ時の1.5倍の負担がかかります。そのため、床に置かれた重い荷物を前かがみになって持ち上げると、さらに大きな負担が腰にかかってしまいます。
ぎっくり腰は少し動くだけで激しい痛みが走る最初の2~3日の間(急性期)は、痛む部位を冷やして安静にする必要があります。しかし、急性期が過ぎて我慢すれば体を動かせるほどに痛みが和らげば、痛む部位を温め、ストレッチなどで体を動かして筋力が落ちないようにしましょう。
通常は、そうしたセルフケアによって発症から1週間から10日ほどで痛みは消えていきます。しかし、発症から10日以上経っても痛みが引かなかったり、痛みが徐々に強くなったりする場合は、ほかの病気が腰痛を引き起こしている可能性が高いため、整形外科で診察・検査を受けたほうがよいでしょう。
また、強い痛みとともに尿の出が悪くなったり、足がしびれたりする症状が出ている場合も、病気が原因の腰痛と考えられます。
さらに、ぎっくり腰の痛みが発症から10日ほどで消えるけれど、頻繁に再発してしまう場合は、椎間板ヘルニアの予備軍の可能性が高くなります。そのため、整形外科での診察・検査を経て、適切な処置を受けるようにしましょう。
【ぎっくり腰になった直後の対処法】
●横になることができない場合
腰をねじったり反らしたりしないように注意して、腰を壁に押し付けながら立ち上がり、壁に寄りかかりながら横歩きで移動しましょう。少し背を丸め、お腹に力を入れるのが、移動のコツです。
横になる場所がない屋外でぎっくり腰が起きた場合は、建物の壁など硬くしっかりしたものに腰を押し付け、背中を少し丸めた状態でなんとか動けるほど痛みが和らぐまで待ちましょう。
●横になることができる場合
自宅でぎっくり腰になった場合は、硬めの布団の上で腰と膝を少し曲げながら、横向きに寝転がりましょう。しかし、外出中にぎっくり腰になった場合は、なんとか動けるほど痛みが和らぐまで、硬い座面の長椅子やベンチ、最悪の場合は床などで、自宅の場合と同じく腰と膝を少し曲げながら横になりましょう。ただし、仰向けに寝るほうが痛みがましになる場合は、軽く曲げた膝の下にクッション(外出中は手荷物)を入れたり、低めの台(外出中は手荷物)に両脚を載せたりするとよいでしょう。
【痛みが軽くなってからのケア】
・腰の固定
医療用コルセットやサラシを巻き、ねじれたり反ったりしないように腰を固定しましょう。
・適度な運動
多少痛くても、ストレッチなどで体を動かしましょう。
・腰を温める
ぎっくり腰の激しい痛みが和らいだら、一般的な腰痛である慢性腰痛症の場合と同じく、腰を温めて血行をよくしましょう。
【ぎっくり腰の痛みのケア】
ぎっくり腰の痛みは、椎骨や筋肉で炎症が起きていると考えられるため、「急性期」と呼ばれる痛みが激しい最初の2~3日は、安静にして基本的に腰を冷やします。市販の冷湿布や、氷を入れたビニール袋に乾いたタオルを巻いた即席の氷のうなどを使いますが、冷やす時間は15分前後が目安です。それ以上冷やしてしまうと、冷えによって筋肉が硬くなり回復が遅れてしまいます。
【(注意)ぎっくり腰の鋭い痛みは冷やしてケア!】
明確な原因が不明の腰痛とは?
(どんな症状ですか?)【セルフケアによって予防や改善が可能な腰痛です】
二足歩行で生活をしている人間は、お尻の筋肉である大臀筋が背骨(脊柱)の土台部分である骨盤の角度を約30度に傾け、腹筋と背筋が背骨をサポートしているおかげで、重い上半身を支えることができています。裏を返せば、この3種類の筋肉が衰えてしまうと、人間は「正しい姿勢」を維持することが難しくなるのです。
背骨はゆるやかなS字状のカーブを描いているおかげで、約5キロある頭部の重量を分散させて腰の負担を軽減させていますが、3種類の筋肉が衰えて姿勢が悪くなると、背骨のカーブは崩れてしまい、負担が増えた腰が痛むのです。
こうした腰痛がいわゆる一般的な腰痛となります。明確な原因を特定できないため「非特異的腰痛」と呼ばれ、常に痛む「慢性腰痛症」と、急に激痛が走るぎっくり腰の「急性腰痛症」に分類されます。
『Dr.クロワッサン 脊柱管狭窄症、骨粗しょう症、ぎっくり腰もスッキリ! 腰痛の新常識』(2020年8月27日発行)より。