ふくらはぎがピキーンと痛む「こむら返り」と腰痛の意外な関係。
撮影・黒川ひろみ モデル・くらさわかずえ スタイリング・高島聖子 ヘアメイク・宮島香奈子 文・山下孝子 イラスト・宇和島太郎、松元まり子
足が「つる」現象は腓腹筋(ひふくきん)のけいれん
足が「つる」痛みで動けなくなったり、目が覚めてしまったり、誰もが経験したことがある不快な「こむら返り」は、実は腰痛を抱えている人に起きやすい傾向があります。それは、私たちの体に備わっている筋肉を伸張・収縮するメカニズムに深く関係しています。
筋肉は腱(けん)によって骨と結合していますが、筋肉に過度の負担がかかってしまうと、筋肉自体や腱が損傷する危険があります。そのため、筋肉に組み込まれている「筋紡錘(きんぼうすい)」というセンサーが筋肉の伸びた長さを脊髄に報告すると、「これ以上伸びると筋肉や腱に断裂の危険がある」と判断した場合に、脊髄が筋肉に対して収縮を命令するのです。
一方、筋肉と骨をくっつけている腱にも、「腱紡錘」というセンサーが組み込まれており、筋肉が伸張しすぎているのを察知すると、筋肉が弛緩(しかん)するように命令を出します。
つまり、筋紡錘と腱紡錘のおかげで、私たちの体は筋肉が伸びた時に腱が縮み、筋肉が縮んだ時に腱が伸びるというサイクルが成り立っているのです。
実は、こむら返りは腓腹筋というふくらはぎの筋肉の腱紡錘がなんらかの理由で正常に働かなくなり、筋肉が過度に収縮することで痛みを感じるけいれんの一種なのです。
ちなみに、腓腹筋だけでなく、全身の筋肉がけいれんを起こす危険性があります。例えば、胸の部分にある大胸筋や、腕のひじから下の部分にある腕橈骨筋(わんとうこつきん)、お尻の部分にある梨状筋(りじょうきん)、すねの部分にある前脛骨筋(ぜんけいこつきん)なども、よく「つる」筋肉です。
●筋紡錘
筋肉の状態を脊髄に報告し、脊髄の命令を受けて筋肉を伸張・収縮させる。
●腱紡錘
筋肉の伸張・収縮を察知し、縮みすぎた筋肉を弛緩させる命令を出す。
疲労、脱水、冷えなどによって腱紡錘と筋紡錘のバランスが崩れてこむら返りが起きる!
腱紡錘の誤作動は水に溶けると電気を通す「電解質(イオン)」のバランスが乱れることで起こりますが、そのきっかけはさまざまで、腰痛を抱えている人はそのリスクが高くなります。
代表的な電解質であるマグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウムなどのミネラル(無機栄養素)は人間の体液(血液・リンパ液・細胞間液など)に含まれていますが、加齢、疲労、冷え、脱水、栄養不足などさまざまな要因でバランスが乱れます。
例えば、運動によって筋肉に過度の負担がかる疲労は、筋肉の収縮をコントロールするカルシウムが不足します。また、冷えは血行が悪くなることで筋肉に電解質が届かなくなり、脱水や栄養不足は体内の電解質が不足するのです。
電解質のバランスが乱れる要因に加齢が挙げられているのは、腰痛の要因でもある筋肉の衰えによって血行が悪くなることと、高齢者の体が脱水症状に陥りやすいためです。
夜眠る前の水分補給がこむら返りの予防になる
高齢になると、喉の渇きを感じづらくなるため、こまめな水分補給が必要になります。その一方で、トイレが近くなるといった排尿トラブルも抱えがちです。
そのため尿意で目が覚めたくないからと、就寝前の水分補給を控える人が少なくありません。しかし、人間は睡眠中にコップ約1杯分の汗をかくため、就寝前にこそ、しっかり水分を摂取する必要があります。そうすれば、睡眠中のこむら返りを予防するだけでなく、脳卒中や心筋梗塞などのリスクも減らせます。
なお、こむら返りがあまりに頻繁に起きる場合は、代謝系、脊髄系、血管系、甲状腺系、神経・筋肉系の病気のシグナルかもしれません。腰痛の場合、脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)や腰部椎間板ヘルニアの症状の可能性もありますので、早めに診察を受けるようにしましょう。
もしも睡眠中にこむら返りが起きたら
(対処法1)壁を使う
(対処法2)タオルを使う
『Dr.クロワッサン 脊柱管狭窄症、骨粗しょう症、ぎっくり腰もスッキリ! 腰痛の新常識』(2020年8月27日発行)より。