閉経を過ぎた女の体・恋・欲望について、本音で話そう。【花房観音さん・松井久子さん対談】
撮影・中島慶子 文・田村幸子
“40代、仕事を夢中でしていたころは、セックスを楽しむ余裕なんて全然なかったわ。” 映画監督・作家 松井久子さん
“閉経まで、まさに秒読みの状況ですが、性欲がなくなることなんてないですね。” 作家 花房観音さん
閉経を迎えたら、舞台の緞帳(どんちょう)が下りるように「女」ではなくなってしまうのか。51歳の花房観音さんと、76歳になったばかりの松井久子さん。それぞれの立場から閉経後に女はどう変わるのか、あるいは変わらないのか。セックス、エロティシズム、貞淑さを求められる閉塞感、ジェンダーギャップなど、縦横無尽に熱い対話が始まる。
松井久子さん(以下、松井) 閉経したら、女は「女」でなくなる。そう思っている人はたくさんいるわね。でも、それはまちがい。女は生涯、女ですよ。
花房観音さん(以下、花房) 私はまだですが、知人が「閉経したら、性欲がすっかりなくなった」と打ち明けてくれました。松井さんはいかがですか。
松井 私の場合はちょっと一般的ではないと思うけれど、50歳になって体のあちこちが悲鳴を上げたのね。それである女優さんからレディスクリニックを紹介されて、女性ホルモンを充填する注射を月に一度打つようになりました。始めてからは、うそのように体の不調が消えて元気になったわよ。おかげで膣が乾いて痛いとか、セックスが苦痛ということもなくて。性欲は閉経とか、年齢には関係ありません。
花房 ホルモン注射は、いつまで打ち続けるのですか。
松井 それは私も最初にクリニックで聞きました。「松井さんが元気ですごしたいなら、ずっと」ですって。
花房 それは仕事も恋愛もセックスも、ということですね。50歳を目前に閉経にうろたえ、それまでにやり残したことがないようにと足掻いていた私は、女性同士の風俗に行ってみました。
松井 何か面白い発見はありました?
花房 年甲斐もなく風俗体験なんてと、恥ずかしがっていたら、60~70代の常連客もいると聞いてホッとして。
松井 女同士の性交は、挿入も射精もないから、純粋に快楽を求め合えそう。
花房 立たせなきゃとか、妊娠したらどうしようとか、生理になったらまずいなとか、そういう心配はないから、心から解放されました。
松井 女は仕事、子育て、介護で忙しいうちは、セックスを楽しむなんて無理。だから私は70代の恋愛を勧めているんです。
花房 それでも、好きな男にもう若くはない裸の自分を見せるなんて、と恥じらう気持ちもあるでしょうね。
松井 それはあるかもしれない。
花房 いつか読んだ林真理子さんの小説で、〈男に見上げられる騎乗位は自信がない〉とあって、腑に落ちて……。
松井 閉経した女だって欲情もするし、恋愛感情も抱く。それをどこかで封印しているのは、社会構造だったり、男たちの偏見や女の思い込みゆえでしょう。
花房 バスガイドをしていたとき、女性関係が奔放な運転手さんがいて。「奥さんは浮気してないの?」と聞いたら「うちの嫁さんはそっちのほうは全然で、大丈夫や」と言ってました。このオッサンなんにもわかってないな、と。
松井 そうそう。男は外でさんざん遊んでも「うちの女房は性欲なんてない」と頑なに信じているからおかしくて。
花房 女も外で何をやっているか。
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