からだ

閉経を過ぎた女の体・恋・欲望について、本音で話そう。【花房観音さん・松井久子さん対談】

  • 撮影・中島慶子 文・田村幸子

受け身ばかりのセックスはつまらないから、欲望に向き合いたい。

松井 それでも日本の女は、エロティシズムについて大っぴらに話すことはタブー視されている。どうしてかというと、女が性愛について解放されたら、男たちが困るから。いまどき「生娘」なんて言葉が話題になるなんて!

花房 貞淑さを求めてるんですかね。

松井 それは私たちが大学生のころもそうでしたよ。卒業したらすぐ結婚しないと売れ残るって必死だったの。

花房 ミステリー作家の山村美紗さんの評伝を書いたとき、作品を読むと〈28歳お局さま〉とか〈25歳のオールドミス〉という表現に、のけぞりました。いまなら、いちばん楽しいときですよ。

松井 花房さんがエッセイで書いていた渋谷で売春相手に殺された東電OLは、まだ39歳だったのね。驚きました。

花房 彼女の年齢を超えたいま、なぜ死んでしまったのか、いまなら、希望も居場所もあっただろうに。そう思って殺害現場近くの地蔵にお参りさせてもらいました。

松井 時代によって女性の立場は、変わる。遅々とした歩みだけれど。そういえば、私が結婚した50年前は、処女性を当然のように求められました。

花房 うちの母は松井さんと同世代なんですが、妹たちは処女で嫁いだって信じてそうで。そんなわけないんですが。

松井 それも時代ね。でも、処女で嫁ぐから危険なの。セックスの相性もわからないで結婚するなんて。

花房 女性のセックスの悩みは、セックスレスかセックスしても感じないということだと、聞いたことがあります。

松井 閉経すると、男の人に性器をふれられるだけで痛くてたまらないという人もいるけれど、それは自分でフェミニンケアできるんじゃないかな。

花房 淫乱とかおばさんのセックスなんて気持ち悪いと悪態ついている女にかぎって、自分のフェムゾーンを見たことないんだろうな、と思います。

 “  50過ぎても煩悩まみれ、執着満載ですよ。でも、それをおもしろがって生きていたいですね。” 花房さん

松井 小説で女性器のケアをしているシーンを書いたら、私がやっていると完璧に思われて(笑)。

花房 手入れするとつるんとして愛おしくなりますよ。私も最近はシュガーリングで処理しています。

松井 グルーミングも大切ですが、自分がどうしてもらうと気持ちいいのか、知っておく必要があると思うの。

花房 セルフプレジャーがありますね。

松井 いつも相手がいるわけじゃないから、もっと自分ですればいいのに。

花房 セルフプレジャーにも偏見があって、「モテない、さみしい女」だと。

松井 そんなの放っておけばいいの。グッズがなくても、シャワーの水圧でやってみるとか。

花房 それはいいかも!

松井 自分で自分を気持ちよくできるのは、大人の嗜みね。ところで、花房さんが結婚したのはいつごろですか。

花房 小説家デビューした年に入籍しました。2011年です。

松井 官能的な小説やエッセイを書いてらして、独り身だと面倒なことに巻きこまれたりするものね。

花房 そうなんです。そこは結婚していて本当によかったと思います。

松井 私は24歳で結婚して33歳で離婚しましたが、既婚のころはイヤな目に遭わなかったから。

花房 いまはどうですか。『疼くひと』がベストセラーになり、憶測やら妬みで人間関係にも影響したそうですね。

松井 ええ。長年つきあいのあったたくさんの女友だちが去っていきました。これまでのように介護や認知症などをテーマにしていたら、安全なのはわかっていましたが。それでも、違う表現をしたかった。高齢者だって恋をするし、性欲だってある。セックスはどなたにもあたりまえの営みなのに、なぜタブー視するのか。もっと解放されてもいいのに。

花房 70代になっても恋をして、好きな人とセックスをする。それはとても素敵なことです。私が松井さんの小説を読んで心に残っているのは、主人公の女友だちが死を間近にした夫から「口でしてほしい」と懇願され、病室でしてあげる。そのシーンを想像すると泣けてくるほどに。

松井 それはありがとう。あの夫婦は妻がよそに男をつくって家を出て、それをくり返すうちに夫婦の営みはなくなっていたの。それが最期のときは、妻にゆだねたいという。

花房 『ヘイケイ日記』でも書きましたが、源氏物語に登場する源典侍(げんのないしのすけ)が理想的。50歳過ぎで若い男とやり狂う女なのに、知的で自立していてパートナーがいて、と、いちばん幸せだと思う。

松井 江戸時代までは春画の世界のように、官能的で性も解放されていた。

花房 京都や奈良の神社でも、節分に乱交の集いがあったそうです。

松井 現代の貞操観念は明治維新、富国強兵の流れで、近代国家の家制度ができてからでしょう。わずか百数十年前からの価値観で女性はこうあるべきだと、貞操観念に縛られてきたんです。

花房 閉経した女にも性欲があるのに、ないことにされるのは、そのせいか。

松井 よく女は子宮で感じるとか、子宮が疼くと男が言うでしょう。私は実は43歳で子宮を摘出しているの。それでも好きな人の前では性欲も湧くし、疼きますよ、子宮がなくても。

花房 最近では女性向けのロマンティックなアダルトビデオが秘かに流行っていて。それを見て推しの男優ができるそうで、ファンミーティングがあります。そこで推しの男優にハグしてもらう企画がめちゃくちゃ人気らしくて。その人たちに、「セックスしたくないの?」と聞くと、ハグだけで充分だと。

松井 え、セックスはしないのね。

花房 小説では15歳年下の男性との情愛を描いていましたが。

松井 いま、次の小説を書いていて。テーマは〈最後のひと〉で、男性の主人公は80代の半ば。リアルの恋愛もしていますよ。花房さんが、女性とのセックスについて話してらしたでしょう。私がいまの彼と愛し合うときと、とてもよく似ています。高齢になると、ペニスを挿入して射精することはなくて、そうなると、セックスがエンドレスに続く。

 “  これが最後の恋愛になる予感。お互いの年齢に合わせたセックスの形は官能的で、エンドレスな余韻に浸れます。” 松井さん

花房 男が射精して果てると、それでお終い、というセックスでは感じられないでしょうね。男が立たなくても違う形のエクスタシーがあれば、1回のセックスがとても豊かになりますね。

松井 妊娠もしないし、男の射精のタイミングに気を遣うこともない。それから、この恋愛はきっと最後になるという予感があって、別れがあるとしたら、それは死別するとき。そう思うと、とても気持ちが楽になったのよ。

花房 女性にセックス体験談を聞いたら、「彼が迫ってきて求めるから」とみんな受け身。そこに彼女たちの欲望はないんです。私は若いころ自分の欲望を持つことに罪悪感を感じて苦しかった。いまは受け身では楽しくないし、自分から求めたら、自分が楽しいと思えるようになりました。

松井 歳をとるってことは大人になること。誰に遠慮することもないし、自分の人生なんだから、自分の欲望にもっと貪欲になってもらいたいですね。

松井久子

松井久子 さん (まつい・ひさこ)

映画監督、作家

1946年生まれ、東京都出身。テレビプロデューサーを経て、’98年、アルツハイマーを患う妻と夫の物語『ユキエ』で映画監督デビュー。『レオニー』など監督作品多数。2021年、70代女性の性愛を描いた小説『疼くひと』(中央公論新社)を上梓、ベストセラーに。

花房観音

花房観音 さん (はなぶさ・かんのん)

作家

1971年、兵庫県生まれ。2010年に『花祀り』で第1回団鬼六賞大賞を受賞、翌年小説家デビュー。49~50歳の閉経までをカウントダウンした日常と心情をリアルに綴ったエッセイ集『ヘイケイ日記』(幻冬舎)が話題。近著に『ごりょうの森』(実業之日本社)。

『クロワッサン』1070号より

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